老年病科
老年病科は、内科診療部門に属していますが、大学院講座としての加齢医学講座は、産婦人科・小児科・小児外科とともに生殖・発達・加齢医学専攻部門に属しています。これは、生物学的時間を基軸として、連続的に加齢現象を把握することを理念としているためです。加齢医学講座は老年病学分野(秋下雅弘教授、小川純人准教授、ほか)および老化制御学分野の2分野に分かれ、各々臨床医学的、基礎医学的アプローチにより加齢医学を究めることを目的としています。
老年病科は75歳以上の高齢者を主に対象としています。歩行が困難となった、食事が食べられなくなった、普段から元気がなくなった、など様々な病状の患者に対し、その原因として疾患がないかどうかを検査し、治療しています。また物忘れ外来には、物忘れを心配なさる方々とご家族が多く受診しています。
平成15年より、女性医師による女性のための女性専用外来(予約制)を開設し、女性特有の悩みから女性の疾患まですべてに対応しています。また、包括的高齢者機能評価(CGA)も積極的に行っています。
高齢者では、一人の患者さんが多くの疾患・問題点を抱えていることが特徴の一つです。当科の診療の特徴は、臓器別専門医療スタッフがチームとして、全人的包括的診療を指向しているところにあり、また、退院支援も含め「地域医療連携センター」と緊密な連携を取っています。
外来においても、その特徴を活かした診療が行われています。 そして最終的には、「病気を治す」だけではなく全人的に「病人をよくする」ことを目標とし、高齢者を個体として包括的に診療することで個々人に合ったテーラーメード医療を実現し、疾患の治癒のみならず生活の質の維持・向上に努めています。
お知らせ
- 昭和37年本邦で初の老年病学教室として当教室は誕生し、平成14年創立40周年を迎えました。冲中重雄先生(当時、第3内科教授との併任)によって開設され、昭和39年より吉川政己先生(故人)が初代専任教授、昭和54年-61年、原澤道美先生(故人)が2代目教授、昭和61年-平成7年、折茂肇先生(現、健康科学大学学長)が第3代教授として教室を指導しました。平成7年より大内尉義が第4代教授に就任し、平成25年7月に秋下雅弘先生が、老年病科第5代教授(専任)に就任し現在に至っています。なお、医学部附属病院診療科再編成に伴い、当診療科の呼称を、平成10年4月、老人科より「老年病科」に改めました。
- 平成15年より老年病科外来の中に女性総合外来を開設しました。
- 当科の講師であった長瀬隆英先生が、平成15年6月本学呼吸器内科教授に就任しました。
- 平成29年5月 江頭正人先生が、東京大学 医学教育国際研究センター 医学教育学部門 教授に就任いたしました。
概要
診療体制
診療科としての老年病科は、内科診療部門に属しており、小川純人准教授、小島太郎講師(病棟医長・外来医長)、石井正紀講師(医局長)ほか関連部署も含めて非常勤講師8名、助教4名、特任臨床医1名、内科専攻医3名、大学院生10名より構成されています。
- 【外来】
当科では高齢者医療の専門家として全人的医療を行っております。<体の不調がどこからきているのかわからない><年のせい、といわれたけれど心配><症状はあるのだが、はっきりとした病名が分からない>、<少し物忘れが気になってきた>、<全体的に体を評価してもらいたい>など、臓器別の外来診療で解決が難しかった患者さんを中心に診療しています。より具体的な症状としては、物忘れ、食欲低下、意欲低下、歩行障害、息切れ、体重減少、不明熱などの高齢者に多い症候や原因不明の症候、ADLを大きく損ねるきっかけとなる症候に対して、幅広く対応しております。
特に、当科では、認知症の患者さんを多く診療しており、その分野の専門医がそろっています。また、骨粗鬆症を専門とする医師やCOPD、喘息、睡眠時無呼吸症候群などの呼吸器疾患を専門とする医師もおりますので、高齢者の幅広い症状に対応していきます。多くの疾患を合併し、たくさんの病院、診療所、診療科を受診している患者さんも多いと思いますが、本当は、ひとつの診療科で体全体をみながら診療してもらうほうがよい場合も多くあります。各々の病院、診療科から紹介いただければ、そのような患者さんを、一度全体的に評価して薬などの整理をするお手伝いもできると思います。 - 【もの忘れ外来】
老年病科の初診外来では、もの忘れ外来として、物忘れや、それに関連する症状の患者さんを診ています(月に20-30人)。多くの場合、心理検査での認知機能の評価、血液検査や画像検査での他疾患の除外や認知症の病型の診断をすすめています。ケースによっては、入院してこれらを評価することもあります。薬物療法を検討するとともに、生活を支えるための社会資源の紹介や介護の助言など、まさに全人的なアプローチで認知症の診療をすすめています。
診療時間
各曜日 9:00~11:00 - 【女性総合外来】
女性の心と体の健康のために、女性総合外来を開設しています。女性のライフサイクルに応じた様々な症状に対して総合的に診療する「女性総合外来:女性医師による女性のための外来」です。一回の診療時間を30分とし、十分な診療時間を活かして疾患だけでなく、女性特有の様々な悩みに対して総合的に診療する専門外来です。初診の方も、他科からの御紹介の方も受診可能です。女性外来受診をご希望される患者さんがありましたら是非ご紹介ください。
診療時間
金曜日午後
13:30~15:30 (初診30分、再診20分) - 【入院】
入院棟A11階南フロアを中心に、およそ30ベッドで入院を管理しています。臓器にかかわらず、全人的に病気に取り組むことが当科の特徴です。特徴的な疾患としては、認知症に対する精査入院も受け入れています(平成24年度と平成25年度の2年間で163件の入院)。今後は高齢者の食欲低下精査入院も受け入れることを予定としています。当科は75歳以上を主体として、入院治療を行っています。90歳代後半の方も珍しくありません。睡眠時無呼吸症候群の精査入院も行っており、このような疾患に関しては、若い方の入院も受け入れています。高齢者の心不全、肺炎、脳血管障害など救急外来から入院される比率が高いことも当科の特徴です。
治療方針
「病気をよくする」だけではなく、全人的に「病人をよくする」ことを目標としています。これは、疾病の治療はもとより、患者さんご本人が、ご本人らしく日々生活が営めるように体力の向上をめざし、自宅で生活するための社会資源の活用についても援助いたします。
対象疾患および得意分野
高齢者高血圧、高齢者高脂血症、生活習慣病予防、メタボリック症候群、高齢者糖尿病、甲状腺機能異常、骨粗鬆症、圧迫骨折、脊椎すべり症、認知症(物忘れ外来)、脳血管性認知症、アルツハイマー病、脳梗塞、パーキンソン病、女性ホルモン補充療法、更年期障害、漢方による治療、不整脈・心筋梗塞・狭心症・心不全・心臓弁膜症などの心疾患、起立性低血圧、閉塞性動脈硬化症、睡眠時無呼吸症候群、誤嚥性肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支喘息、急性・慢性呼吸不全、間質性肺炎、COPD呼吸リハビリテーション、禁煙指導、在宅酸素療法、脳梗塞後嚥下リハビリテーション、尿失禁なども含めた老年症候群など
主な検査と説明
外来
- 【PWV(Pulse Wave Velocity)脈派伝播速度検査】
動脈硬化、血管の硬さの指標となります。 - 【心臓超音波検査(心エコー)】
心臓のポンプ機能や弁の機能など、心臓における多くの情報を計測することができます。 - 【トレッドミル運動負荷試験(運動負荷心電図検査)】
心電計をつけてベルトの上を歩きます。労作性狭心症の診断を行います。 - 【ホルター心電図検査】
一日中心電計をつけて狭心症、不整脈の診断を行います。 - 【24時間監視型血圧測定】
携帯型の小さな血圧計により一日の血圧変動などを計測します。 - 【骨密度測定】
腰椎、股関節の骨の密度を測って骨粗鬆症を詳しく調べます。 - 【重心動揺検査】
体のバランスを測定して転倒のリスクを調べます。 - 【長谷川式簡易認知症スケール(HDS-R)検査】
認知症の程度を調べます。 - 【Mini-Mental State Examination(MMSE)検査】
認知症の程度を調べます。 - 【簡易嚥下誘発試験】
simple swallowing provocation test(Lancet 1999;353:1243)
我々が開発した方法で、誤嚥性肺炎のリスクを簡便に検出します。 - 【簡易酸素、呼吸モニターによる睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング検査】
機械を自宅で装着し、その晩、自分で検査をして、翌日病院に器械を返却する。
入院
- 【認知症精査入院】
心理検査、高齢者総合的機能評価、頭部CT、頭部MRI、脳血流SPECT、髄液採取(Tap test) - 【高齢者総合的機能評価 (CGA)】
バーセルインデックス、HDS-R、Geriatric Depression Scale (GDS) などを用いてADL・知能スケールなど高齢者の日常生活に関わる機能を総合的に評価します。このCGA行うことで、その後のクリティカルパス、退院支援を有効にすすめ、入院期間の短縮につながります。 - 【24時間血圧測定】】
夜間の血圧異常(下がりすぎ、あがりすぎ)、早朝高血圧などを調べて、より効果的な血圧管理を行います。 - 【脈波伝播速度検査(PWV)】
動脈硬化(血管の若さ)の程度が定量的に把握できます。治療による効果の評価もできます。 - 【Polysomnography(ポリソムノグラフィー)】
睡眠ポリグラフともいいます。呼吸、脳波、心電図、いびき、などを夜間1晩検査します。睡眠時無呼吸症候群の診断に必須で、治療方針の決定に必要です。 - 【嚥下誘発試験(swallowing provocation test))および嚥下造影検査(videofluorography)】
嚥下障害を詳しく調べ、誤嚥性肺炎の予防のための指導を行います。 - 【サルコペニア・フレイル】
BIA法による筋量測定、歩行速度
科長
