東大病院の目指す方向

「東大病院の目指す方向2021~2022年度版」の最終評価にあたって

東京大学医学部附属病院には、「臨床医学の発展と医療人の育成に努め、個々の患者に最適な医療を提供する」という理念があり、その実現のために「患者の意思を尊重する医療の実践、安全な医療の提供、先端的医療の開発、優れた医療人の育成」という目標を掲げています。この理念と目標を達成し、東大病院が社会から求められている日本の医学・医療の拠点としての機能を果たすために、当院では2年毎に「東大病院の目指す方向」と題するアクションプランを立ててきました。最新のプランは「東大病院の目指す方向2021~2022年度版」として、2021年に作成されました。その内容は以下のとおりです。

1.診療
新型コロナウイルス感染症院内感染防止のための取組みを更に徹底するとともに、小児医療センター、総合周産期母子医療センターの全面稼働に向けた機能拡充や新規外来患者の迅速な受入れを推進する。また、慢性期疾患に対するオンライン診療の具体的な検討を開始し、スマート・リモート医療センター開設に向けた検討を進める。ゲノム医療を安定的に提供できる体制を整備するとともに、移植医療拡充や運用効率化による手術数増加を目指す。患者の意思決定支援の強化と説明同意書の整理を行うとともに、病院機能評価受審での指摘事項への対応、再点検と改善を実施し、医療安全体制を更に充実させる。また、災害対策訓練の強化と継続的な取組みを実施し、危機管理機能を強化する。前方・後方連携をより一層推進し、外来から入院、入院後を見据えた入院支援を強化するとともに、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い中断している国際化対応についても引き続き検討を進める。

2.研究
研究者ファーストでの臨床研究推進に向けてより一層の体制整備を行うとともに、最先端科学技術シーズの更なる発掘及びシーズ・ニーズマッチングによる産学連携を推進する。また、他学部等の研究との連携による新たな研究プロジェクトや民間資金による大型研究プロジェクトの創出を目指す。各種予防医学事業の研究分野での有機的連携を進めるとともに、多施設共同の医師主導治験を更に推進する。臨床研究中核病院におけるリアルワールドエビデンス創出のための取組を更に推進することに加え、医療AIの社会実装に向けた取組を進める。

3.教育・研修
様々な専門職に対する教育支援体制を充実させるためシミュレーションセンター運用方法を確立させるとともに、職業・医療倫理教育及びノンテクニカルスキルの更なる醸成を進める。臨床研修制度変更及び新専門医制度に対応したプログラムを充実させ体制整備を図る。特定行為研修修了者の活用に向けた更なる教育及び研修プログラムの改善を進める。タスクシフト・タスクシェアに伴う関連職種の教育内容の検討を進めるとともに、ウイズコロナ、ポストコロナ社会に対応したオンライン教育研修体制を推進する。ICTを活用した次世代型医学・医療教育を推進し、医療のグローバル人材の育成・輩出を目指す。

4.人事・労務
働き方改革の推進に向けて、労働時間短縮及び健康確保措置の取組を進めるとともに、医師に係る兼業・副業時間を通算した適正な労働時間管理の方法を検討する。医師の戦略的な配置を行うとともに、タスクシフト・タスクシェアを推進するため、医師事務作業補助者及び特定行為研修修了看護師等の活用を進め、多職種で移行可能な業務を検討する。また、メディカルスタッフ等の資格取得及びキャリアパス支援を検討する。ダイバーシティーの推進と働きやすい職場環境の実現を目指し、両立支援の推進及び診療体制の維持を考慮した支援体制の検討を進める。

5.運営
病院重要業績指標(KPI)の達成に向けた取組を更に推進するとともに、コスト意識醸成とコスト削減、院内施設の利用率向上を図る。中央診療棟1機能強化促進事業及び手術部等の機能強化を進める。新型コロナウイルス感染症で縮小した診療機能回復を目指すとともに、病床稼働状況を見極め、病床数も含めた病床運営の在り方を検討する。予防医療国際化事業を開始し予防医学の発展に貢献するとともに、医科学研究所附属病院の活性化のための連携強化を推進する。また、医療従事者の戦略的配置並びに設備及び医療機器等の戦略的更新に向けた検討を進める。目標管理方法及びガバナンス体制を再整理するとともに、法務・コンプライアンス機能を拡充する。大規模災害やポストコロナを見据えた危機管理に対応できる大学病院の体制強化を進める。さらに、スムーズな外来診療及び満足度の高い患者給食の提供等により患者満足度を高める取組を実践し、ホスピタリティの向上を目指す。

このたびの最終評価では、策定したアクションプランについて進捗状況を確認し、「達成状況」、「次期執行部に引き継ぐべき課題」を担当副院長中心に取り纏め、病院執行部で評価、検討いたしました。

この2年間、東大病院ではコロナ禍においても地域医療機関と連携し、積極的に新型コロナウイルス感染症陽性患者の受け入れを行いました。また、民間企業との共同研究を着実に実行するとともに、財源の多様化を図るため東大病院基金を設置いたしました。この他、クリニカルシミュレーションセンターの設置による教育機能の向上や医師の働き方改革への対応、病院重要業績指標(KPI)の達成に向けた施策の実施等、様々な取組を行いました。本最終評価をご覧いただければ全ての領域においてアクションプランが達成されつつあることがご理解いただけるものと存じます。

アクションプランの達成に向けご尽力いただいた教職員の方々にあらためて感謝いたします。東大病院がその理念を達成し、ますます飛躍するためには教職員が一体となって誠心誠意、努力を続けていくことが必要です。次年度の新体制においても、引き続きのご支援をお願いいたします。

2023年3月吉日
東京大学医学部附属病院
病院長   瀬戸 泰之

「東大病院の目指す方向2021~2022年度版」最終評価

1.診療

新型コロナウイルス感染症については多くの重症・中等症の新型コロナウイルス患者を受け入れるなど、行政や地域医療機関と協力体制を築きながら感染症対策に貢献してきた。小児医療センター、総合周産期母子医療センターの全面稼働に向けて体制を整備し、新規外来患者の迅速な受入れを推進した。慢性期疾患に対するオンライン診療の具体的な検討を開始し、試行的段階まで進めている。ゲノム医療を安定的に推進できるよう院内の運用体制を検討し効率化した。手術数については新型コロナウイルス感染症の影響で一時期減少したが、臓器移植やデイサージャリーの増加などもあり、回復が見られた。病院機能評価受審での指摘事項への対応の中で患者の意思決定支援の強化と説明同意書の整理を行い、放射線・病理レポートの開封・対応を推進するなど医療安全体制を充実させた。国際化対応については、新型コロナウイルス感染症の影響を受けながらも取り組みを継続した。

2.研 究

研究者教育の一環として臨床研究者養成講習会及び臨床研究推進レクチャーシリーズを開催した。安価なEDCであるACReSSを開発した大学病院臨床試験アライアンスが一般社団法人化されたのに伴い、会員となり今後も安定的な利用体制を構築した。TRセンターによる院内研究者への橋渡し研究、共同研究の周知をおこなった。臨床研究中核病院におけるリアルワールドエビデンス創出のための取組みとして、医薬品標準コードと検体検査コード管理のためのシステム開発を行った。臨床研究のARO支援体制の強化として国立大学病院臨床研究推進会議の「人材雇用とサステナビリティ」をテーマとするトピックグループ5に参加して他施設の状況についての情報収集を実施した。より広く寄付を募るため東大基金内に東大病院募金を発展的解消した東大病院基金を設置した。

3.教育・研修

研修医、専攻医を対象にしたプログラムを充実させるとともに、研修環境、研修支援体制の改善を進め、多くの優れた人材を輩出した。また、クリニカルシミュレーションセンターを立ち上げ、運用方法の確立により利便性を進め、実践的技能に関する教育機能を向上させた。特定行為研修修了者の活用に向けた更なる教育、ドクターズアシスタントへの講習実施など、タスクシフト・タスクシェアに伴う関連職種の教育内容の検討・拡充を進めるとともに、メディカルスタッフ対象の講習会受講費用の補助制度を開始し教育環境のさらなる改善を行なった。また、大学病院幹部養成プログラムの実施、医療リアルワールドデータ活用人材育成や臨床研究者育成に取り組む等高度医療人材の育成・輩出をさらに進めた。

4.人事・労務

2024年4月に向けた医師の働き方改革への取組として、安全衛生委員会等を活用した労働時間短縮のための取組みを進めるとともに、兼業先における労働時間の通算管理のため、勤怠管理システムを活用した従事内容等の把握・管理を実施し、特例水準適用医師に関する追加的健康確保措置への対応として、勤務間インターバル、連続勤務時間制限及び代償休息並びに面接指導に関する規程等の整備を行った。

また、医師の戦略的な人員配置や新型コロナウイルス感染症の感染状況を踏まえた勤務体制の検討を進めるとともに、特定行為研修修了看護師の活用に向け、呼称・ユニフォーム等の院内周知方法や配置を定め、処遇等の検討を行った。

更に、メディカルスタッフ等の資格取得支援制度の創設、病児・病後児保育室の閉室期間中の代替措置として、派遣型病児保育制度を開始する等、両立支援の推進や働きやすい職場環境の整備を行った。

5.運 営

病院重要業績指標(KPI)の達成に向けた取組を更に推進するため、理解が得られやすい経営資料の作成・情報発信に積極的に取り組むとともに、財政状況の改善を図るため、後発医薬品の積極的な導入や同種同効で安価な医療材料の導入など、コスト意識醸成とコスト削減に取り組んだ。新型コロナウイルス感染症で縮小した診療機能回復を目指すため、各診療科・部の取組強化に対して病院全体で支援を実施した。新型コロナウイルス感染症が引き続き継続しているなかで、コロナ患者の受入と一般の高度医療の維持・両立に取り組みながら、病院財政基盤の安定化に向けた取組を強化した。

多様な財源確保や医療の国際化促進に向けて、予防医療国際化事業を開始し、予防医学・医療の発展に貢献するとともに、医科学研究所附属病院の活性化のための連携強化を推進した。また、医療従事者の戦略的配置並びに設備及び医療機器等の戦略的更新に向けて、継続的に取り組んだ。

ガバナンス体制の強化を図るため、法務・コンプライアンス機能を拡充し、大規模災害やポストコロナを見据えて、危機管理体制を充実・強化を図った。また、スマートホスピタルの実現に向けて、スムーズな外来診療により患者満足度を高める取組として患者呼出システム(アプリ)導入に向けた検討など、医療DXにも取り組んだ。

「東大病院の目指す方向2021~2022年度版」