東大病院の目指す方向
「東大病院の目指す方向2021~2022年度版」の作成にあたって
東京大学医学部附属病院には、「臨床医学の発展と医療人の育成に努め、個々の患者に最適な医療を提供する」という理念があり、その実現のために「患者の意思を尊重する医療の実践、安全な医療の提供、先端的医療の開発、優れた医療人の育成」という目標を掲げています。この理念と目標を達成し、東大病院が社会から求められている日本の医学・医療の拠点としての機能を果たすために、当院では2年毎に「東大病院の目指す方向」と題するアクションプランを立ててきました。この計画は、中間評価、最終評価とPDCAサイクルを回して自己点検をしつつ、必ず実行する行動計画としています。
新しい行動計画では、1. 診療、2. 研究、3. 教育・研修、4. 人事・労務、5. 運営の5つの分野(大項目)について、それぞれ短期(1-2年内)、長期にわけて担当副院長を中心にプラン作成を分担し、また執行部でも議論を重ね、「東大病院の目指す方向 2021~2022 年度版」として策定致しました。1. 診療では、さらに1)入院・外来、2)中央診療、3)医療安全、4)地域医療、5)国際とし、5. 運営では1)経営・財務、2)総務・コンプライアンス、3)ホスピタリティの中項目別に検討しています。いずれも東大病院が大学病院としてのミッションをさらに充実させ達成するための多岐にわたる重要な内容となっています。ぜひ熟読していただきたいと思います。
診療面においては、高度急性期病院として地域医療に貢献し、大学病院の使命でもある移植医療やがんの集学的治療・ゲノム医療等、高度医療・先端医療の提供と機能強化をさらに推進します。また、接遇文化の充実と医療安全体制の強化も図り、患者さんに優しい病院を目指すとともに、研究面においては、臨床研究中核病院・がんゲノム医療中核拠点病院や橋渡し研究拠点にふさわしい臨床研究を推進し、英知を結集し未来の医療を開発します。教育面においては、将来の東大病院を支える人材を育成すべく、多彩な教育プログラムによる支援体制を目指します。
一方では、働き方改革に象徴される労務環境の改善や、診療設備における、中央診療棟1の手術室、材料管理部の老朽化に伴う改修工事などの喫緊の課題への対応も重要と考えています。なお、新型コロナウィルス感染症の影響がまだ続いており、継続した対策と、この経験を将来にいかに活かしていくかということも大切と考えています。
東大病院がその理念を達成し、ますます飛躍するためには教職員が一体となって誠心誠意努力を続けていくことが必要です。ご関係の皆様には、引き続き東大病院へのご理解とご支援をお願い申し上げます。
2021年5月吉日
東京大学医学部附属病院
病院長 瀬戸 泰之
東大病院の目指す方向2021~2022年度版
1. 診療
新型コロナウイルス感染症院内感染防止のための取組みを更に徹底するとともに、小児医療センター、総合周産期母子医療センターの全面稼働に向けた機能拡充や新規外来患者の迅速な受入れを推進する。また、慢性期疾患に対するオンライン診療の具体的な検討を開始し、スマート・リモート医療センター開設に向けた検討を進める。
ゲノム医療を安定的に提供できる体制を整備するとともに、移植医療拡充や運用効率化による手術数増加を目指す。患者の意思決定支援の強化と説明同意書の整理を行うとともに、病院機能評価受審での指摘事項への対応、再点検と改善を実施し、医療安全体制を更に充実させる。また、災害対策訓練の強化と継続的な取組みを実施し、危機管理機能を強化する。
前方・後方連携をより一層推進し、外来から入院、入院後を見据えた入院支援を強化するとともに、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い中断している国際化対応についても引き続き検討を進める。
2. 研究
研究者ファーストでの臨床研究推進に向けてより一層の体制整備を行うとともに、最先端科学技術シーズの更なる発掘及びシーズ・ニーズマッチングによる産学連携を推進する。また、他学部等の研究との連携による新たな研究プロジェクトや民間資金による大型研究プロジェクトの創出を目指す。
各種予防医学事業の研究分野での有機的連携を進めるとともに、多施設共同の医師主導治験を更に推進する。臨床研究中核病院におけるリアルワールドエビデンス創出のための取組を更に推進することに加え、医療AIの社会実装に向けた取組を進める。
3. 教育・研修
様々な専門職に対する教育支援体制を充実させるためシミュレーションセンター運用方法を確立させるとともに、職業・医療倫理教育及びノンテクニカルスキルの更なる醸成を進める。臨床研修制度変更及び新専門医制度に対応したプログラムを充実させ体制整備を図る。特定行為研修修了者の活用に向けた更なる教育及び研修プログラムの改善を進める。
タスクシフト・タスクシェアに伴う関連職種の教育内容の検討を進めるとともに、ウイズコロナ、ポストコロナ社会に対応したオンライン教育研修体制を推進する。ICTを活用した次世代型医学・医療教育を推進し、医療のグローバル人材の育成・輩出を目指す。
4. 人事・労務
働き方改革の推進に向けて、労働時間短縮及び健康確保措置の取組を進めるとともに、医師に係る兼業・副業時間を通算した適正な労働時間管理の方法を検討する。医師の戦略的な配置を行うとともに、タスクシフト・タスクシェアを推進するため、医師事務作業補助者及び特定行為研修修了看護師等の活用を進め、多職種で移行可能な業務を検討する。
また、メディカルスタッフ等の資格取得及びキャリアパス支援を検討する。ダイバーシティーの推進と働きやすい職場環境の実現を目指し、両立支援の推進及び診療体制の維持を考慮した支援体制の検討を進める。
5. 運営
病院重要業績指標(KPI)の達成に向けた取組を更に推進するとともに、コスト意識醸成とコスト削減、院内施設の利用率向上を図る。中央診療棟1機能強化促進事業及び手術部等の機能強化を進める。新型コロナウイルス感染症で縮小した診療機能回復を目指すとともに、病床稼働状況を見極め、病床数も含めた病床運営の在り方を検討する。
予防医療国際化事業を開始し予防医学の発展に貢献するとともに、医科学研究所附属病院の活性化のための連携強化を推進する。また、医療従事者の戦略的配置並びに設備及び医療機器等の戦略的更新に向けた検討を進める。
目標管理方法及びガバナンス体制を再整理するとともに、法務・コンプライアンス機能を拡充する。大規模災害やポストコロナを見据えた危機管理に対応できる大学病院の体制強化を進める。
さらに、スムーズな外来診療及び満足度の高い患者給食の提供等により患者満足度を高める取組を実践し、ホスピタリティの向上を目指す。