東大病院の目指す方向

「東大病院の目指す方向2019~2020年度版」の最終評価にあたって

東京大学医学部附属病院には、「臨床医学の発展と医療人の育成に努め、個々の患者に最適な医療を提供する」という理念があり、その実現のために「患者の意思を尊重する医療の実践、安全な医療の提供、先端的医療の開発、優れた医療人の育成」という目標を掲げています。この理念と目標を達成し、東大病院が社会から求められている日本の医学・医療の拠点としての機能を果たすために、当院では2年毎に「東大病院の目指す方向」と題するアクションプランを立ててきました。最新のプランは、「東大病院の目指す方向2019~2020年度版」として、2019年に作成されました。その内容は以下の通りです。

1.診療
小児医療センターの段階的な機能拡大を行うとともに、総合周産期母子医療センターの体制を整備することで、小児・周産期医療のさらなる充実を目指す。臓器移植医療に対応するための体制整備やがんゲノム医療を推進する。病院機能評価受審を機会とした医療提供プロセスの再点検と改善により、よりいっそう医療安全管理体制を充実させる。さらに、地域医療連携を推進し、近郊の医師会との診療・教育における連携強化を進めるとともに、当院が担うべき国際化対応を目指す。

2.研究
臨床研究を推進する体制のさらなる強化を目指し、組織再編を行うとともに、P1(Phase1)ユニットの新たな需要の開拓と運用方法を検討する。また、シーズ・ニーズマッチングによる産学連携と、リアルワールドエビデンス創出のための取組みをさらに推進する。民間企業との共同研究を推進し、民間資金による研究プロジェクトの創出を目指す。また、多施設共同の医師主導治験をさらに推進する。

3.教育・研修
さまざまな専門職に対する教育支援体制や職業倫理教育を充実させるとともに、個々の教職員のノンテクニカルスキルのさらなる醸成を図る。また、臨床研究者育成を推進するとともに、臨床研修制度変更や新専門医制度に対応した体制を整備しプログラムを充実させる。さらに、特定行為指定研修機関への認定と特定行為を実践できる看護師の育成を目指す。

4.人事・労務
働き方改革関連法に対応すべく人員配分や制度の運用を見直し、適正な人事管理を目指す。さらに労務時間管理を徹底し、有給休暇取得の義務化への対応や医師の休日・労働時間インターバルの適正な確保を目指す。また、メディカルスタッフ等の研究・資格取得及びキャリアパス支援を検討する。

5.運営
病院の理念と基本方針を見直し、それに基づく中・長期的な目標を検討する。具体的な経営目標を設定し、経営改善の取り組み状況のモニタリングとフィードバックをより一層強化する。また、予防医学の拡充と国際化を推進し、予防医学発展への取組みを検討する。設備、機器等の戦略的な更新を検討し、診療ニーズや将来構想に基づいたスペースの効果的な運用を目指す。さらに、患者・家族への接遇や多職種間、患者・家族とのコミュニケーションをさらに強化することにより、ホスピタリティの向上を目指す。

昨年から今年にかけて新型コロナウィルス感染の猛威が、当院にも大きな影響を及ぼしています。そのような状況にあっても、粛々とアクションプランにもとづき業務が行われ、すべての領域で目標が達成されつつあることが本最終評価からおわかりいただけるものと思います。本当に職員一人一人の尽力に敬意を表します。東大病院がさらに飛躍するためには、引き続き職員が一体となって誠心誠意努力を続けていくことが肝要です。まだまだ達成すべき課題は多く、また、新型コロナウィルス感染症も収束しておりません。本最終評価の中で、「引き継ぐべき課題」とされた内容をつねに念頭におき、これからの活動に繋げていきたいと考えております。

2021年3月吉日
東京大学医学部附属病院
病院長   瀬戸 泰之

「東大病院の目指す方向2019~2020年度版」最終評価

1.診療

小児医療センター、総合周産期母子医療センターの体制整備が進み、受け入れ患者数の増加につながった。臓器移植医療はセンター化による体制整備が進み、併せて多臓器同時移植の体制も整った。がん医療関係では、外来化学療法室の混雑状況の軽減、ゲノム異常に対応する治療到達度向上が得られた。病院機能評価受審を機会に医療提供プロセスの再点検と改善を行い、医療安全管理体制がより充実した。診療全体を通し、新型コロナウイルス患者の受け入れ体制の整備、院内感染を防ぐための対応を進め、安全安心な医療の継続につながっている。地域医療連携の推進、国際化対応については新型コロナウイルス感染症の影響を受け進捗が少なかったが、ポストコロナ時代を見据えて準備を進めた。

2.研 究

臨床研究推進センターへの改称と組織再編を実施し、研究者・企業・患者にワンストップでの対応を可能とし、薬事・戦略開発室、スタディーマネージャー室を設置し、早期・探索開発推進室と共に多施設共同の医師主導治験を推進する研究支援体制を整備した。P1ユニットで新型コロナウイルス感染防止策を行い、健常者を含む被験者をスクリーンし、長期にわたる治験・臨床研究を実施する体制を整備した。TRセンターやTR機構の広報活動によりシーズ発掘を推進し、シーズ・ニーズマッチングによる医療機器シーズ育成や有望なシーズの企業導出を目標に産学連携を推進した。院内でのリアルワールドエビデンス創出のための取組みに対応するデータベースの試験開発を推進した。センター・オブ・イノベーションプログラムへの研究グループ、企業の参加が定着させ、さらにニプロ株式会社と大型共同研究契約による東京大学・ニプロ研究開発センターを設置した。

3.教育・研修

研修医、専攻医を対象にしたプログラムを充実させるとともに、研修環境、研修支援体制を整備し、結果的に多くの優れた人材を輩出した。情報管理、コミュニケーション等有効性の高い新規オンライン教材を開発、実施することにより研修の質の向上がえられた。また、シミュレーション室の整備をすすめ、実践的技能に関する教育機能を向上させた。看護師特定行為研修指定研修機関として認定され看護師特定行為研修を開始するとともに、大学病院幹部養成プログラムの実施、医療リアルワールドデータ活用人材育成や臨床研究者育成に取り組む等高度医療人材の養成を図った。

4.人事・労務

2024年度に向けた医師の働き方改革への取組として、医師の処遇改善及び人事・労務管理の徹底が課題となる中で、各診療科(部)の業務負荷の状況及び診療機能の強化等の観点から戦略的な人員配置を実施するとともに、新たに医師向け勤怠管理システムを活用した労働時間の把握、宿日直勤務体制の見直し及び研鑽に係る取扱いの明確化等の労務管理の適正化のための取組を実施した。

また、メディカルスタッフ及び看護師等の人員配置の見直し及び業務委託への切替え等の合理化を進めるとともに、看護師特定行為研修指定機関として研修の開始、医師事務作業補助体制の拡充等によるタスクシフト・シェアの推進及び諸会議運営の効率化等の取組など、医療従事者の負担軽減のための様々な施策を実施した。医療従事者の負担軽減及び勤務環境の一層の向上を図るため、引き続き労働時間短縮等のための必要な取組を行っていく。

5.運 営

病院の理念と基本指針の見直しを行い、各種目標との整合性の検証を実施した。具体的な経営目標としてKey Performance Indicator(KPI)を設定し、達成状況のモニタリングを行い、各診療科にわかりやすくフィードバックした。地域医療構想を踏まえた将来の医療需要や現在の病床運営状況等を総合的に検討し稼動病床を削減した。また、コロナ禍の中でも予防医療国際化事業の準備を進めるともに、空きスペースの有効利用や再開発計画にかかる課題の整理及び具体策について継続的に検討する委員会を設置し将来に向けた検討を開始した。さらに、より一層のホスピタリティ向上を目指し、総合患者サービス部を設置し、患者サービス窓口の一元化を実現するとともに、外来会計の待ち時間の短縮のための検討を開始した。

「東大病院の目指す方向2019~2020年度版」