東大病院の目指す方向

「東大病院の目指す方向2015~2016年度版」の最終評価にあたって

東京大学医学部附属病院は、「臨床医学の発展と医療人の育成に努め、個々の患者に最適な医療を提供する」という理念があります。この理念を達成し、日本の医学・医療の重要拠点としての機能を果たすために、2年毎にアクションプランを立て行動してきました。最新のプランは「東大病院の目指す方向2015~2016年度版」として、2015年に現病院執行部の発足時に作成しました。「1.高度急性期医療を中心に最新の医療を安全に実践するための、診療機能向上・体制強化を目指した取り組み」、「2.世界トップレベルの臨床医学研究・先端医療開発の拠点構築に向けた取り組み」、「3.明日の臨床医学・次世代医療を担う医療人の育成に向けた取り組み」、「4.診療・研究・教育のバランスがとれたミッション達成に向けた教職員の適切な配置の取り組み」、「5.機動性の高い組織運営体制の確立と将来を見据えた財政基盤の強化に向けた取り組み」の5章に、合計25 項目のアクションプランを掲げました。

この最終評価は、この2年間のアクションプランの達成度を自己評価して、東大病院の活動をまとめたものです。1)達成した事項、2)新たな課題として次期執行部へ引き継ぐべき事項に分けてまとめています。

この2年間の主な達成事項を上げると、診療面においては、東大病院らしい高難度医療を提供することはもとより、患者さんや地域医療機関にわかりやすい診療体制整備を目指して、地域医療連携体制の強化やセンターなどの診療科横断的な組織構築を進めました。また、医療安全を目的とした医療法の改正により特定機能病院の承認要件が改定され、東大病院でも最重要課題として医療安全体制を強化し、医療安全の諸課題について真摯に取り組み改善して参りました。さらに臨床研究に関する考え方や規制が進化する中で、東大病院は平成28年3月に臨床研究中核病院に承認され、全国で初めての患者申出療養制度を実施しました。病院地区では新しい研究棟である臨床研究棟A-Ⅰ期や分子ライフイノベーション棟が稼働を開始し、東大病院の研究環境は大きく改善されました。一方で、建築費の高騰などによる病院地区の再開発計画の見直しが大きな課題となり、再開発計画見直しWGと経営改革運動本部を立ち上げ対応してきました。その他にも、この最終評価にとりまとめているさまざまな活動がありました。病院執行部をはじめ、ご尽力を頂きました関係の皆様に厚く御礼申し上げます。

次年度への主な申し送り事項として、現在建築中の入院棟B(工事名称:入院棟Ⅱ期)は平成30年初頭から運用開始の予定で、移転と開業に向けて準備が必要です。また、平成29年度は、新しい特定機能病院の承認要件への対応を完了する必要があり、臨床研究倫理指針の見直しや臨床研究法案への対応も求められます。さらに、日本専門医機構の動向を見据えながら、新専門医制度への対応などがあります。東大病院がその理念を達成し、ますます飛躍するためには教職員が一体となって誠心誠意努力を続けて行くことが必要です。ご関係の皆様には、引き続き東大病院へのご理解とご支援をお願い申し上げます。

2017年3月吉日
東京大学医学部附属病院
病院長   齊藤 延人

1. 高度急性期医療を中心に最新の医療を安全に実践するための、診療機能向上・体制強化を目指した取り組み

将来的な診療機能を強化するために、クリニカルパスのさらなる充実や入院棟B開院後の病棟病床計画を確定した。また、わかりやすい診療体制整備を目指して、院内におけるセンターの考え方を階層的に整理し、てんかんセンター、免疫疾患治療センターなどの診療科横断的なセンターや診療科内にセンターを設置し、診療機能をより一層強化した。さらに、多職種協働により、緩和ケア診療や小児医療センター、周産期母子医療センターなどが充実した。

一方で、地域医療連携の強化を目指し、地域医療機関と診療科との直接連絡体制を構築し、医療連携登録証の発行や東大病院地域医療連携会の開催、ソーシャルワーカーの増員などを行った。また、国際診療部の強化により、外国患者の受け入れ体制が整備された。医療安全を目的とした医療法の改正により特定機能病院の承認要件が改定され、最重要課題として、医療安全にも力を入れ、死亡例や合併症発生症例を一元的に管理し、症例検討ができる仕組みを整備した。さらに、患者申出療養に対応するための診療体制を整備した。

2. 世界トップレベルの臨床医学研究・先端医療開発の拠点構築に向けた取り組み

研究倫理と医療倫理をさらに向上させるための取り組みとして、臨床研究の質を高める体制を整備し、倫理審査に関連する包括的な手順書として運用を開始した。

また、さまざまな法の改変に対する対応についても適切に行った。さらに、臨床研究中核病院承認(2016年3月25日)を取得し、患者申出療養の臨床研究実施体制を構築し対応を開始した。

共同利用のための臨床研究棟Aの疾患モデルセンターへの人員配置なども適切に行い、東大病院ゲノム医療プロジェクトなどについても準備を順調に進めている。また、東京大学メディカルタウン構想や国際科学イノベーション拠点構想に基づき先端医療開発支援の活動を継続するとともに、臨床研究活発化のための医薬工学系の大学院生の臨床研究支援センター実習の受け入れと健康総合科学の博士課程大学院生の臨床研究への参画を行っている。

一方で、分子ライフイノベーション棟が本格稼働し、運営のための体制を構築した。また、研究拠点の財政的自立化に向け、臨床研究支援活動の自立化を目指し、財務的な観点からの体制の見直しを行った。今後は、臨床研究棟、分子ライフイノベーション棟の共同利用施設の設備使用料などの取扱いの検討を続けるとともに、知的財産権取得や技術移転活動についても大学本部との対話を強化して進める計画である。

3. 明日の臨床医学・次世代医療を担う医療人の育成に向けた取り組み

次世代を担う医療人育成のため、総合研修センターを中心に多職種に対する教育研修の内容を充実させた。特に、他職種体験研修など、職種・部門を越えた多職種協働研修の導入を行った。

また、ハンズオン講習会や職業倫理教育を充実させ、学生に対しては、医療安全、感染制御、医療倫理教育などの必須化を行った。

さらに、教職員のキャリアパス支援の充実策を検討するためアンケート調査を実施し検討を進めるとともに、実施延期とはなったが新専門医制度に向けたプログラムや運営体制など、さまざまな課題についても検討を行った。

4. 診療・研究・教育のバランスがとれたミッション達成に向けた教職員の適切な配置の取り組み

診療機能と医療安全を高めるため、メディカルスタッフの増員と常勤化による組織強化を重点的に行い、併せて職員増に対応するべく人事労務担当の事務職員を増員した。入院棟B開設に向け、看護師の段階的増員を実施した。また、研究機能強化のため、病棟配置の高度医療クラーク、臨床研究棟・分子ライフイノベーション棟の研究サポート職員、臨床研究信頼性確保のためのメディカルスタッフをそれぞれ増員配置した。

さらに、教育機能強化のために総合研修センター職員を増員した。また、男女共同参画、教職員の安全・健康管理のため、病児保育の開始、健康診断の徹底、相談窓口設置と研修の開始、臨床研修医の労務管理の徹底、夏季特別休暇の取得可能期間の拡大に加えて、関係部署に教職員の増員配置を行い、働きやすい勤務環境の仕組みを強化した。

5. 機動性の高い組織運営体制の確立と将来を見据えた財政基盤の強化に向けた取り組み

臨床研究中核病院認定に伴うガバナンス体制の整備、診療科横断および診療科内のセンター設置のための規則の整備など、機動性の高い組織体制の確立に向けて体制強化を行った。

また、臨床研究棟A-Ⅰ期や分子ライフイノベーション棟の本格的な稼働を開始した。入院棟B開設に向けて機器整備、移転改修計画の検討をさらに進めるとともに、病棟病床計画を確定した。経営基盤の確立に向けては、執行部主導の下、再開発計画見直しWGや経営改革運動本部を立ち上げ、大学本部の協力も得ながらさまざまな経費削減および収入安定化のための取り組みを実施した。

さらに、後発医薬品の積極的な導入を進めるとともに、他の国立大学病院と連携して医療材料の共同購入を実現し、国立大学病院全体の経営安定化にも貢献した。またメディア懇談会の開催回数および発表診療科の増加により対外広報の充実にも努めた。

「東大病院の目指す方向2015~2016年度版」