グッドデザイン賞を受賞:放射線科が新規開発した線量分布測定器
放射線治療装置が高精度化する一方で放射線治療の事前シミュレーションに使用する線量分布測定器の使いやすさと分布解像度には課題がありました。当院の放射線科ではこの問題を解決すべく新たにシンチレーション式線量分布測定器を開発しました。「ないものは自分で作る」という高い志とその実行力が評価され、グッドデザイン賞を受賞しました。
放射線治療と線量分布測定器
放射線治療は患者さんのがん細胞に放射線を照射し、がん細胞を死滅させる治療法です。がん細胞は放射線の影響を受けやすく照射されると壊れます。正常細胞もダメージを受けますが自身で修復することができ、がん細胞ほどの影響は受けません。そのため、がん細胞を選択的に死滅させることができます。
放射線の種類にはX線、電子線、陽子線、重粒子線などがあり、照射方法も利用する放射線発生源も多岐にわたります。現在最も一般的な方法は、線形加速器からX線を患者さんの病巣部に向けて照射する方法で、リニアック(ライナックとも呼ばれます)という装置を使用します。リニアックは放射線(X線)を病巣部分に集中的に照射する一方で、正常細胞にはできるだけ放射線が当たらないよう避けて照射します。
放射線治療を行う際は、患者さんへ照射する放射線(X線)の線量分布を治療施行前に測定し、シミュレーションと比較して計画通りの線量分布となっているかを確認します。放射線は目視で確認できないため、照射が正しく行われるか線量分布を実測して確認する必要があります。
新たな線量分布測定器の開発
最近は放射線治療装置の高精度化が進み、非常に複雑な照射もできるようになりました。それに伴い線量分布も非常に複雑になりましたが、従来の線量分布測定器では解像度や照射可能範囲など限界があり、複数の測定器を併用する必要があることが現場の負担となっていました。また、既存の測定器は全て海外製で、精密機器でありながら円安が拍車をかけ機器導入が非常に高額になることも課題でした。
このような背景から、放射線科の太田岳史特任助教は、新たな線量分布測定器の開発に着手しました。開発にあたり着目したのは、放射線を照射すると微弱発光するシンチレーターと呼ばれる種類の物質で、これにカメラを組み合わせました。放射線を照射されたシンチレーターが発するシンチレーション光をカメラで捉えて線量分布に変換するというしくみです。また、市場で入手可能なシンチレーターは放射線の照射により劣化してしまうため、物質の配合を研究し、耐放射線劣化シンチレーターを新たに作りました。測定器に必要なソフトウェアやカメラドライバー、画像エンジンも独自に開発し、世界で初めてシンチレーター式の線量分布測定器を実用化しました。この測定器は、高解像用途として使用されてきたフィルム式と同等の解像度であり、繰り返し測定も可能で、既存の測定器の利点をすべて並立させており複数機器を併用する必要がなくなります。また、初の国産線量分布測定器でもあります。
グッドデザイン賞を受賞
このシンチレーター式線量分布測定器「ドーズスコープ」が、2024年度グッドデザイン賞を受賞しました。(受賞番号:24G080610/製品化にあたり協力いただいた株式会社シーアイ工業、株式会社千代田テクノル、株式会社菊池製作所とともに受賞。事業主体は当院放射線科。)
放射線治療装置の高精度化が進む中で、高い精度に相応しい線量分布測定器が存在しないことを課題と捉え、「ないものは自分で作る」という高い志とその実行力が評価されました。また、測定方法の技術開発に加え、臨床経験からの使い勝手向上など、様々な角度からの検討が活かされていることや、今後、製作会社と組んだ生産など安定供給による普及が期待されることも評価されました。
【デザインのポイント】
- 高解像度と広い測定領域、繰り返し測定を実現。どの方向からでも測定が可能。外部可視光の撮像も可能
- ユニット分離機構により測定断面の変更ができ、ユニットの交換により拡張性や保守性が非常に高い/li>
- 放射線ダメージを受けても発光に影響を受けない新素材の赤シンチレーターを開発。製品寿命が大幅に拡大