【記者発表】免疫機能の個人差に関わる遺伝子カタログを作成

2017年05月30日研究


-免疫疾患の遺伝的メカニズムの新しい解析手法を開発-

理化学研究所 統合生命医科学研究センター統計解析研究チームの石垣和慶特別研究員、自己免疫疾患研究チームの高地雄太副チームリーダー、山本一彦チームリーダー、東京大学医学部附属病院アレルギー・リウマチ内科の藤尾圭志講師らの共同研究チームは、免疫機能の個人差に関わる遺伝子カタログを作成し、免疫疾患の遺伝的メカニズムの新しい解析手法を開発しました。

私たちの健康状態や免疫機能の一部は、DNA配列の個人差(DNA多型)によって決まります。近年、ゲノムワイド関連解析(GWAS)によって免疫疾患の発症に関与するDNA多型(リスク多型)が多く同定されています。しかし、その遺伝的メカニズムの解明は十分に行われていません。リスク多型がどの免疫細胞において、どの遺伝子の発現量に影響しているのかを明らかにすることが、免疫疾患の遺伝的メカニズムの解明には重要です。

今回、共同研究チームは、105人の健常人から5種類の主要な免疫細胞を回収し、遺伝子発現量の個人差を次世代シーケンサーを用いて網羅的に解析することで、免疫機能の個人差に関わる遺伝子カタログ(eQTLカタログ)を作成しました。複数の免疫細胞を対象とした研究はアジア初の試みです。また、この遺伝子カタログを応用し免疫疾患の遺伝的メカニズムの全体像を評価する新規手法を開発しました。具体的な例として、関節リウマチ患者と健常人の遺伝子情報を用いて、CD4陽性T細胞において176個の遺伝子がTNFパスウェイに与える影響を予測し、それらを総合評価し一つの活性情報に集約しました。これを解析した結果、CD4陽性T細胞におけるTNFパスウェイの活性化は関節リウマチの病態で重要な役割を持つことが確認できました。

本研究で得られたeQTLカタログや解析手法は、関節リウマチなどの自己免疫疾患に加えて、花粉症・喘息・がんなどの免疫が関わる多くの疾患に適応することができます。それらは今後、遺伝的メカニズムに基づいた創薬標的の探索と治療法の開発に貢献すると期待できます。

本研究は、米国の科学雑誌『Nature Genetics』オンライン版(5月29日付け:日本時間5月30日)に掲載されました。

本研究の一部は、武田薬品工業株式会社の支援を受けて行われました。

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