増え続ける臓器提供を移植につなぐ東大病院の挑戦

2026年08月14日患者・一般

-年間100件以上の脳死下臓器移植を支えるための受入体制改革-

発表のポイント


  • 東大病院における2021~2025年の脳死下心臓・肺・肝移植の受入状況を解析し、院内体制整備の効果を検証しました。
  • 手術室運用、看護師配置、麻酔科・臨床工学部との連携強化など、病院全体での受入体制強化により、2023年に低下した応需率が2025年には大きく改善しました。
  • 今後も増加が予想される脳死下臓器提供に対し、移植施設側の受入体制整備の重要性を示す知見として、日本の移植医療体制の発展に貢献することが期待されます。

研究概要

東京大学医学部附属病院臓器移植医療センターの佐藤雅昭副センター長(呼吸器外科 教授)らの研究グループは、2021年から2025年までの脳死下臓器移植の受入状況を解析し、近年急増する脳死下臓器提供に対して東大病院がどのように受入体制を整備し、その成果がどのように現れたかを検証しました。

近年、日本では脳死下臓器提供数が増加しています。一方で、提供臓器があっても移植実施施設側の手術室、ICU、人員配置などの制約により移植を受け入れられない事例が社会的課題となっています。東大病院では2023年前後に受入体制の逼迫が顕在化しましたが、手術室運用ルールの見直し、移植担当診療科の手術枠再編、看護師配置の最適化など、病院全体での取り組みを継続的に実施しました。

その結果、東大病院における脳死下心臓・肺・肝移植件数は2025年に107件に達し、医学的に受入可能であった臓器に対する応需率は2023年の低下から回復しました。特に平日の応需率は2025年に100%近くに達しました(図1)。一方で、休日や同日に3臓器の移植が重なる状況では依然として課題が残ることも明らかとなりました。

本研究は、移植医療の発展においてドナー数の増加だけでなく、移植実施施設側の受入体制整備が重要であることを示したものであり、今後の日本の移植医療政策や病院運営に有用な知見を提供するものです。

図1:急増する脳死下臓器提供に対応する東大病院の受入体制強化と成果:院内横断的な取り組みにより移植機会の最大化を実現

図1:急増する脳死下臓器提供に対応する東大病院の受入体制強化と成果:
院内横断的な取り組みにより移植機会の最大化を実現

急増する脳死下臓器提供に対応するため、東大病院では手術部、麻酔科、看護部、臨床工学部、ICUおよび移植担当診療科が連携して受入体制を強化した。その結果、2025年には年間107件の脳死下臓器移植を実施し、応需率も改善した。
(中央の模式図は生成AI(GPT-5.5)を用いて作図支援を受け、著者らが内容確認および編集を行った上で作成した。)

研究内容

1.研究の背景

日本国内の脳死下臓器提供数は近年増加傾向にあり、2025年には過去最多の146件に達しました。しかし、移植施設側の人的・物的資源には限界があり、提供臓器を受け入れられない事例も報告されるようになっています。東大病院は国内有数の心臓・肺・肝移植実施施設として、2025年には全国の約3割に相当する107件の移植を実施しており、受入体制の整備は重要な課題となっていました。

2.研究成果

本研究グループは、以下のとおり、2021年から2025年までの全国の脳死下臓器提供事例をもとに、東大病院における心臓・肺・肝移植の受入状況を解析しました。また、手術室の運用ルールや人員配置などの院内体制の変遷と応需率との関連を検討しました。

  • 脳死下心臓・肺・肝移植件数は2025年に107件に到達
  • 全体の応需率は2023年を底として回復
  • 平日の応需率は2025年にほぼ100% に到達
  • 2臓器同時受入時の応需率も大幅改善
  • ICU理由による受入断念は2024年以降ほぼ解消

これらの改善には、

  • 手術室運用の見直し
  • 移植診療科の手術枠再編
  • 看護体制の強化
  • 麻酔科・臨床工学部との連携強化

などが寄与したと考えられました。

3.今後の展望

今後、日本ではさらなるドナー数の増加が期待されています。本研究は、移植医療の発展にはドナー数の増加だけでなく、移植実施施設側の受入能力向上が不可欠であることを示しました。また、複数の臓器移植を担う大規模施設における具体的な対応策を示した点で、全国の移植実施施設や医療政策立案に重要な示唆を与えるものです。

論文情報

雑誌名

移植(61巻1号)

論文タイトル

脳死下臓器移植件数増加に対する東大病院の取り組みと成果

著者

佐藤雅昭 1,深柄和彦 2,齋藤祐平 2,谷口優樹 2,徳山薫 2,土井研人 3,4,井口竜太 3,4,柏公一 4,久保 仁 4,今井洋介 5,平井絢子 5,河村岳 5,假屋太郎 5,内田寛治 5,此枝千尋 1,赤松延久 1,安藤政彦 1,大江あゆみ 1,久米春喜 1, 長谷川潔 1,小野稔 1

1.東京大学医学部附属病院 臓器移植医療センター
2.東京大学医学部附属病院 手術部
3.東京大学医学部附属病院 救急・集中治療科
4.東京大学医学部附属病院 臨床工学部
5.東京大学医学部附属病院 麻酔科・痛みセンター

DOI

10.11386/jst.61.1_79

論文URL

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jst/61/1/61_79/_article/-char/ja
※オープンアクセス

掲載日

2026年8月13日(オンライン)

研究者

佐藤 雅昭(呼吸器外科 教授/臓器移植医療センター 副センター長)
小野 稔(心臓外科 教授/臓器移植医療センター センター長)
久米 春喜(泌尿器科・男性科 教授/病院長)

用語解説

(注1)応需率:
臓器あっせんがあり医学的に受け入れ可能だった臓器数に対する実際に受け入れた臓器数の割合