【ニュース】2週間の包括的肥満症入院で内臓脂肪を優先的に減少!肥満症病態の改善へ
2025年03月25日患者・一般
発表のポイント
- 短期間(2週間)の包括的肥満症入院プログラムが、皮下脂肪や筋肉に比し内臓脂肪を優先的に減少させる可能性を示しました。また、白血球数、C反応性タンパクなど炎症マーカーの改善を確認するとともに、血圧、血糖値、脂質、微量アルブミン尿などの肥満関連指標の改善に寄与する可能性を示しました。
- 新規の体組成測定法「生体デュアルインピーダンス法」を用いることで、短期間の減量が体組成に与える影響を明らかにしました。
- 2週間の包括的肥満症入院プログラムが、肥満症治療における有効で安全な治療法の選択肢となる可能性を示しました。
研究概要
肥満症治療では3〜6か月で3%の減量が推奨されますが、短期間の減量が体組成や病態に与える影響は十分に解明されていません。東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 門脇友莉医師らの研究グループは、新規の体組成測定法である生体デュアルインピーダンス法を用い、2週間の包括的肥満症入院プログラムが体組成と病態に与える影響を検討しました。 当院に入院した肥満症患者29名を対象に前向き観察研究を行いました。2週間で3〜5%の減量を目標に、エネルギー・炭水化物・たんぱく質を調整した食事、有酸素・レジスタンス運動、薬物療法を組み合わせたプログラムを行い、入院前後の内臓脂肪面積、皮下脂肪面積、除脂肪面積、臨床パラメータの変化を評価しました。
その結果、体重は4.2%減少し、内臓脂肪面積は16.7%と大幅に減少した一方、皮下脂肪面積は2.4%減少、除脂肪面積は4.0%減少にとどまりました。また、白血球数、C反応性タンパクなどの炎症マーカーや血圧、血糖、脂質、微量アルブミン尿等肥満関連指標の改善を認めました。本研究により、2週間の包括的肥満症入院プログラムが、骨格筋の減少を抑えつつ内臓脂肪を大幅に減少させ、肥満症の病態改善に有益な影響を与える可能性が示されました。
図 2週間の包括的肥満症入院プログラムにおける体組成変化
研究内容
1.研究の背景
当院では、肥満症の治療と肥満症関連疾患の予防・改善を目的に、約2週間の包括的肥満症入院プログラムを実施しています。このプログラムでは、エネルギー制限に加え、炭水化物・たんぱく質を適切に調整した食事を提供し、有酸素運動・レジスタンス運動、薬物療法を組み合わせています。医療スタッフが連携し、患者さん一人ひとりに合わせた包括的な治療を行い、肥満症の改善を目指しています。
近年、肥満症の有病率は世界的に増加しており、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、虚血性心疾患など、さまざまな健康障害の発症リスクを高めることが明らかになっています。このため、肥満症に対する効果的な治療戦略の確立が喫緊の課題となっています。
日本肥満学会の肥満症治療ガイドライン2022では、3〜6か月の期間で現体重の3%の減量が推奨されています。しかし、より短期間の減量が体組成や病態に及ぼす影響は十分に解明されていません。特に急激な減量による骨格筋量の減少の可能性が懸念されるため、安全かつ有効な減量方法の確立が求められています。また、肥満症の病態を理解する上で、脂肪の蓄積部位は重要な要素となります。内臓脂肪は慢性炎症やアディポカイン(注1)の分泌異常、インスリン抵抗性(注2)を引き起こし、肥満に起因または関連する健康障害を促進するため、減量の際にいかに内臓脂肪を優先的に減少させるかが重要な課題となります。
減量の指標として体重は簡便に評価できるため一般的に用いられますが、体重の変化だけでは、内臓脂肪、皮下脂肪、骨格筋などの個々の変化を正確に評価することは困難です。そのため、減量の質を適切に評価するには、体組成測定が重要な役割を果たします。
従来の減量に関する体組成研究の多くは、数か月から年単位で実施されてきました。これは、内臓脂肪面積の測定にCTを使用する場合、放射線被曝の問題があり、短期間での繰り返し測定が困難であったためです。しかし近年、新たな体組成測定技術として生体デュアルインピーダンス法(注3)が登場し、被曝のリスクがなく、短期間で繰り返し内臓脂肪面積、皮下脂肪面積、除脂肪面積(注4)の測定が可能となりました。
そこで本研究では、この生体デュアルインピーダンス法を用いて、短期間(約2週間)の肥満症入院プログラムが体組成および肥満症の病態に与える影響を検討しました。
2.研究成果
当院の糖尿病・代謝内科に入院した20〜80歳の肥満症患者29名を対象に、前向き観察研究を実施しました。本研究では、2週間で3〜5%の減量を目標とし、エネルギーを制限(25〜30 kcal/目標体重 kg)し、炭水化物はエネルギー比40〜60%に調整し、たんぱく質の適量にも配慮した食事、さらに運動療法(有酸素運動やレジスタンス運動)、および薬物療法の適宜調整を組み合わせた包括的肥満症入院プログラムを実施しました。
生体デュアルインピーダンス法を用いて、入院前後の内臓脂肪面積、皮下脂肪面積、除脂肪面積を測定し、さらに肥満症に伴う慢性炎症の指標である炎症マーカー(白血球数、C反応性タンパク(注5))や臨床パラメータを評価しました。
その結果、体重は4.2%減少し、内臓脂肪面積は16.7%と大幅に減少しました。一方で、皮下脂肪面積の減少は2.4%、除脂肪面積の減少は4.0%にとどまり、骨格筋量の大幅な減少は生じませんでした。
さらに、白血球数およびC反応性タンパクなどが有意に改善し、加えて血圧、空腹時血糖値、中性脂肪、LDLコレステロール、微量アルブミン尿(注6)も有意に改善しました。また、インスリン使用者においては1日の総使用量の減少が確認されました。
3.社会的意義・今後の展望
本研究では、短期間(2週間)の包括的肥満症入院プログラムが、皮下脂肪や除脂肪組織に比べ、内臓脂肪を優先的に減少させる可能性を示しました。また、肥満症に伴う慢性炎症を反映する炎症マーカーの改善および各種の肥満関連指標の有意な改善が観察されたことから、短期間の包括的介入が望ましい体組成の変化をもたらし、肥満に関連する病態を効果的に改善する可能性が示唆されました。
これまで、肥満症治療においては3〜6か月の減量目標が一般的でしたが、本研究の結果は、2週間という短期間であっても適切な包括的介入を実施することで、安全かつ臨床的に有意な効果を得られる可能性を示しています。本研究の成果により、短期間の包括的肥満症入院プログラムが、肥満症治療の新たな選択肢の一つになることが期待されます。
論文情報
雑誌名
Endocrine Journal
論文タイトル
Effects of rapid weight loss on the body composition and pathophysiological mechanisms involved in obesity
著者
Yuri Kadowaki, Tomohisa Aoyama, Yusuke Hada, Masakazu Aihara, Mika Sawada, Rie Sekine, Hidetaka Itoh, Takashi Kadowaki, Naoto Kubota*, Toshimasa Yamauchi*.
(* 責任著者)
DOI
10.1507/endocrj.EJ24-0315
掲載日
2024年11月28日(オンライン)
研究者
門脇 友莉(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 病院診療医)
青山 倫久(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 特任講師(病院))
相原 允一(東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科 助教)
澤田 実佳(東京大学医学部附属病院 病態栄養治療センター 主任栄養士(病院))
関根 里恵(東京大学医学部附属病院 病態栄養治療センター 副病態栄養治療部長)
門脇 孝 (東京大学名誉教授/虎の門病院 院長)
窪田 直人(熊本大学病院 糖尿病・代謝・内分泌内科/熊本大学大学院生命科学研究部 教授/東京大学医学部附属病院 届出研究員)
山内 敏正(東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科 教授)
用語解説
(注1)アディポカイン:
脂肪細胞から分泌される生理活性物質の総称。脂肪細胞の肥大化により分泌バランスが崩れ、善玉アディポカイン(アディポネクチン)の分泌が減少し、悪玉アディポカイン(TNF-α、IL-6など)の分泌が増加する。
(注2)インスリン抵抗性:
内臓脂肪の蓄積により、アディポカインの分泌異常や慢性炎症が引き起こされ、インスリン作用(効き)が低下すること。
(注3)生体デュアルインピーダンス法:
腹部と四肢に電極を装着し、腹部体幹と腹部表面の2種類の電気抵抗値を測定して、内臓脂肪面積、皮下脂肪面積と除脂肪面積を算出する。被曝のリスクがなく、短期間に繰り返し測定が可能である。
(注4)除脂肪面積:
脂肪を除いた組織の面積で、筋肉、骨などで構成される。本研究では、生体デュアルインピーダンス法を用いて臍周囲の腹部断面の除脂肪面積を測定した。
(注5)C反応性タンパク:
体内の炎症の程度を示す指標となるタンパク質である。肥満症患者ではC反応性タンパク値が高く、慢性炎症が持続していることが示唆される。C反応性タンパクの上昇は脂質異常、高血圧、高血糖、および心血管疾患のリスクと相関があると報告されている。
(注6)微量アルブミン尿:
肥満に起因ないし関連する健康障害の一つに肥満関連腎症があり、肥満症患者では腎臓への負担が増大し、微量アルブミン尿が出現することがある。微量アルブミン尿は腎機能障害の早期指標であり、進行すると慢性腎臓病のリスクが高まることが知られている。