コロナ禍で思春期世代のメンタルヘルスが増悪
2023年11月22日患者・一般
―この影響は男子で顕著、支援策の充実が求められる―
研究成果のポイント
- 東京近郊の一般思春期児童の約2000人の縦断調査データ(東京ティーンコホート)を用いて、コロナ禍が16歳児のメンタルヘルスに与えた影響を検討しました。
- コロナ禍中(2020年3月~2021年9月)に調査が実施された群は、コロナ禍前(2019年2月~2020年2月)に調査された群よりもメンタルヘルス指標(抑うつ症状と精神病様症状)の増悪を認めました。
- この増悪は男子でより顕著で、抑うつ症状は初期の学校閉鎖期間後から2021年にかけて徐々に増悪しました。
- 一方、女子では、学校閉鎖期間(2020年3月~5月)に抑うつ症状が一時的に改善しましたが、学校が再開されるとコロナ禍前と同水準に戻りました。
これらは、コロナ禍が2年目に入るにつれて、特に思春期男子のメンタルヘルスが悪化したことを示します。今後長期的な経過を評価すると同時に、思春期世代のメンタルヘルスに対する支援策を充実していく必要があります。
背景
世界的に、コロナ禍における思春期世代のメンタルヘルスの悪化が報告されてきました。一方、これまでの研究では、コロナ禍前との比較がなかったり、思春期の発達に伴う自然なメンタルヘルスの変化と区別することが難しかったりと、コロナ禍による影響を十分に評価できていませんでした。
概要
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(略称:NCGM)の国際医療協力局グローバルヘルス政策研究センターの細澤麻里子主任研究員、公益財団法人 東京都医学総合研究所の社会健康医学研究センターの山口智史研究員および西田淳志センター長、国立大学法人 東京大学の大学院医学系研究科脳神経医学専攻臨床神経精神医学講座の笠井清登教授、安藤俊太郎准教授、米国フォーダム大学のJ.DeVylder博士らの研究グループは、コロナ禍をまたいで実施された東京ティーンコホート(注1)の16歳時調査のデータを用いて、コロナ禍が思春期世代のメンタルヘルスに与えた影響について分析しました。また、性別や世帯収入、コロナ禍の時期によってこの影響が異なるのかについても検討しました。
結果
16歳時調査をコロナ禍中(2020年3月~2021年9月)に実施した群は、コロナ禍前(2019年2月~2020年2月)に実施した群よりもメンタルヘルス指標(抑うつ症状および精神病様症状)が、年齢による自然な変化を上回る増悪を認めました。この増悪は女子よりも男子でより顕著であることがわかりました(図1A、図2)。
さらに、抑うつ症状についてコロナ禍の時期別に検討した結果、男子では、学校閉鎖期間後の2020年6月から2021年9月にかけて徐々に増悪しました。一方、女子では、学校閉鎖期間(2020年3月~5月)に抑うつ症状が一時的に改善しましたが、学校が再開された後にはコロナ禍前と同水準に戻りました(図1B)。
図1.男女別のコロナ禍前群とコロナ禍群における抑うつ症状の推移(論文1より)
図2.男女別のコロナ禍前群とコロナ禍群における精神病様症状の推移(論文2より)
コメント
コロナ禍による思春期世代のメンタルヘルスへの影響は、日本では特に男子において影響が大きかったことが明らかとなりました。長く続いた学校生活における感染予防のための活動制限(部活動の自粛等)や援助希求に対するジェンダー規範などがこの結果に影響した可能性も考えられます。今後、援助希求をしやすい環境づくりを含めた思春期世代のメンタルヘルスに対する支援策を充実させていくと同時に、コロナ禍が子ども達のメンタルヘルスに与えた影響について長期的にみていく必要があります。
論文情報
発表論文1
雑誌名
Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry
論文タイトル
Sex difference in adolescent depression trajectory before and into the second year of COVID-19 pandemic
著者
Hosozawa, M., Ando,S., Yamaguchi, S., et al.
DOI
https://doi.org/10.1016/j.jaac.2023.08.016
掲載日
2023年10月5日(オンライン)
発表論文2
雑誌名
Journal of Child Psychology and Psychiatry
論文タイトル
Adolescent psychotic experiences before and during the COVID-19 pandemic: a prospective cohort study
著者
DeVylder, J., Yamaguchi, S., Hosozawa, M., et al.
DOI
10.1111/jcpp.13907
掲載日
2023年11月13日(オンライン)
研究者
笠井 清登(東京大学医学部附属病院 精神神経科 科長/教授)
安藤 俊太郎(東京大学医学部附属病院 精神神経科 副科長/准教授)
共同研究機関
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター
公益財団法人 東京都医学総合研究所
用語解説
[注1]東京ティーンコホート
2002年から2004 年に出生した 3,171 名の子どもとその養育者(主に母親)を対象とした住民コホートで、2012年から2014年にかけて実施された第1期調査から2 年おきに調査を実施している。本研究では、第1期(10歳児調査)から第4期(16歳児調査)までのデータを用いて分析をしている。
東京ティーンコホート Webサイト