糖尿病網膜症検査の実施割合向上には、内科と眼科との連携が課題

2023年05月26日患者・一般

網膜症治療の進歩により糖尿病網膜症による失明は減少しているものの、視力低下による障害者手帳の発行に至る原因疾患の第3位であり、定期的な眼底検査によって網膜症進行を早期発見することで早期治療を行うことが重要です。糖尿病治療ガイド(日本糖尿病学会編著)では網膜症のスクリーニングとして年に1回の眼底検査が推奨されていますが、これまでの全国の調査では、糖尿病で処方を受けている患者のうち眼底検査を受けている割合は2015年度で半数以下に留まり眼底検査の実施割合向上が課題となっていました。現在の日本で糖尿病のある方が眼底検査を受けるプロセスとしては、内科の医師から眼科受診を勧められ、受診した眼科の医療機関で眼底検査を受ける流れが主となっています。国立国際医療研究センター研究所糖尿病情報センターの井花庸子医師、杉山雄大室長、東京大学大学院医学系研究科 代謝・栄養病態学の山内敏正教授、虎の門病院の門脇孝院長らの共同研究チームは、「匿名レセプト情報・匿名特定検診等情報データベース(NDB)」を用いることにより、糖尿病処方を継続的に受けている患者における2017年度の眼科受診と眼底検査の実施割合を算出し、糖尿病網膜症のスクリーニング実施のプロセスのうち具体的に何処に課題があるのか分析を行いました。

研究の結果、眼科を受診した患者は約47%と低い一方で、眼科を受診したうち約97%が眼底検査を実施しており、眼科を受診した患者では糖尿病網膜症のスクリーニングとして適切な眼底検査がほぼ実施されていました。この結果より、糖尿病患者の眼科受診割合を改善させるために、内科と眼科との連携を強化し、内科から眼科受診につなげることが重要であることがわかりました。都道府県別に割合を算出したところ、眼科の受診割合は約39%–51%、そのうち眼底検査実施割合は92%–99%と、結果に幅があるものの、同様の傾向を認めました。

また、女性・高齢者・インスリンを使用している者では眼底検査を実施している傾向にあり、日本糖尿病学会の認定教育施設・病床数の多い医療機関で糖尿病処方をされている患者では眼底検査の実施割合が高いことがわかりました。

糖尿病治療ガイドで推奨されている適正な糖尿病網膜症スクリーニング実施の更なる普及が望まれます。本研究は厚生労働科学研究費補助金循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業「今後の糖尿病対策と医療提供体制の整備のための研究」(研究代表者 門脇孝)、「糖尿病の実態把握と環境整備のための研究」(研究代表者 山内敏正)の一環で行われた研究であり、アジア糖尿病学会が発行する”Journal of Diabetes Investigation (JDI)“に掲載されました(5月2日オンライン掲載)。

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