新型コロナウイルス感染症の抗ウイルス薬開発

2023年01月20日研究


  • 新型コロナウイルスに対する抗ウイルス薬の開発が世界で進められていますが、肺炎を発症した患者に対し有効性を示す抗ウイルス薬は依然として限られ新たな薬剤の開発が望まれています。
  • 本研究ではナファモスタットメシル酸塩(注1)とファビピラビル(注2)の併用療法とファビピラビル単剤療法を比較し、併用療法が単剤療法よりも早期の解熱と酸素飽和度(SpO2)の改善効果を示すことを世界で初めて報告しました。
  • ナファモスタットメシル酸塩とファビピラビルの併用治療が新型コロナウイルス感染症に対する抗ウイルス薬治療の新たな治療選択肢になる可能性があります。今後、より多くの患者や重症度において有効性と安全性の評価が必要です。

研究内容

2020年5月より開始した肺炎を有する新型コロナウイルス感染症患者を対象とするファビピラビルとナファモスタットメシル酸塩の併用療法の有効性および安全性を検討する多施設共同単盲検ランダム化比較試験(2020年5月8日プレスリリース)の結果がまとまりましたので要点をご報告します。

本研究は医療ひっ迫や承認薬の追加などによる研究環境の変化で主要評価項目の変更や目標症例数の変更が必要となりましたが、当院ならびに東京大学医科学研究所附属病院、虎の門病院、東京医科歯科大学病院、千葉大学医学部附属病院、国際医療福祉大学成田病院、富山大学附属病院、滋賀医科大学医学部附属病院、産業医科大学病院、松阪市民病院で共同して実施され2021年12月に患者登録が終了しました。

ファビピラビルとナファモスタットメシル酸塩の併用群と、ファビピラビル単独群の二群の比較で、薬剤投与を開始する前と投与開始から7日目の10段階で評価した患者の重症度の変化量に有意な差を認めず、主要評価項目を達成することはできませんでした。

しかし、副次評価項目では、発熱の症状持続時間が単剤群では9.0日間であったのに対し併用群では5.0日間となり、併用群で有意に短い結果でした(logrank検定p=0.009)。酸素飽和度(SpO2)の改善までの期間も単剤群では7.0日間であったのに対し併用群では5.0日間となり、併用群のほうが短い傾向を認め(logrank検定p=0.097)、SpO2値の推移では治療開始後単剤群よりも併用群で有意に高い値で推移しました(7日目p=0.022)。ウイルス量の変化や胸部画像所見の軽快率では両群に差を認めませんでした。

両群で高頻度に見られた有害事象は、高尿酸血症と肝機能異常でした。単剤群と比較し併用群で頻度が高かったものは、静脈炎などの血管異常でした。有害事象による中止が両群各々2例 ありましたが、重篤な有害事象はありませんでした。

以上のように、抗ウイルス作用の異なるナファモスタットメシル酸塩とファビピラビルを併用療法が、肺炎を有する新型コロナウイルス感染症に対し一定の臨床効果を示す世界で初めての研究成果となりました。今後、さらに多くの患者や異なる重症度の患者で有効性と安全性を評価する必要があります。

本研究は令和2年度厚生労働科学研究費補助金および国立研究開発法人日本医療研究開発機構の令和3,4年度新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業で行われました。本研究で使用するファビピラビル「アビガン®錠 200mg」は富士フイルム富山化学株式会社より、 ナファモスタットメシル酸塩「注射用フサン®50」は日医工株式会社よりそれぞれ無償提供を受けました。

詳細はInternational Journal of Infectious Diseasesに掲載されるのに先立ち、2023年1月3日にオンライン版にて公開されました。

論文情報

雑誌名

International Journal of Infectious Diseases

論文タイトル

Multicenter, Single-Blind, Randomized Controlled Study of the Efficacy and Safety of Favipiravir and Nafamostat Mesilate in Patients with COVID-19 Pneumonia

著者

Mahoko Ikeda, Shu Okugawa, Kosuke Kashiwabara, Takashi Moritoyo, Yoshiaki Kanno, Daisuke Jubishi, Hideki Hashimoto, Koh Okamoto, Kenji Tsushima, Yasuki Uchida, Takahiro Mitsumura, Hidetoshi Igari, Takeya Tsutsumi, Hideki Araoka, Kazuhiro Yatera, Yoshihiro Yamamoto, Yuki Nakamura, Amato Otani, Marie Yamashita, Yuji Wakimoto, Takayuki Shinohara, Maho Adachi-Katayama, Tatsunori Oyabu, Aoi Kanematsu, Sohei Harada, Yuichiro Takeshita, Yasutaka Nakano, Yasunari Miyazaki, Seiichiro Sakao, Makoto Saito, Sho Ogura, Kei Yamasaki, Hitoshi Kawasuji, Osamu Hataji, Jun-Ichiro Inoue, Yasuyuki Seto, Kyoji Moriya*

DOI

10.1016/j.ijid.2022.12.039

掲載日

オンライン版:2023年1月3日

研究者

森屋 恭爾
(東京大学医学部附属病院 感染制御部 教授[研究当時]/
現・東京大学 保健・健康推進本部 特任研究員)

用語解説

(注1)ナファモスタットメシル酸塩:
抗凝固薬や膵炎治療薬として国内で使われている薬剤ですが、東京大学医科学研究所の研究などで新型コロナウイルスのヒトの細胞への侵入を抑制することが発見されています。

(注2)ファビピラビル:
抗インフルエンザウイルス薬として2014年3月に条件付き製造販売承認された薬剤です。RNA ポリメラーゼを抑制することで新型コロナウイルスのヒトの細胞内での増殖を抑制すると考えられています。