インスリン様成長因子-1受容体の遺伝子型と疾患との関連を解明

2021年09月16日患者・一般

―同受容体に関係する疾患の精密医療につながる可能性―

研究の概要

東京大学の門脇孝名誉教授(現・国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 院長)、東京大学大学院医学系研究科の山内敏正教授、庄嶋伸浩特任准教授、細江隼特任助教、山王病院の門脇弘子部長、鳥取大学医学部周産期・小児医学分野 鞁嶋有紀講師(現・島根大学医学部附属病院小児科 准教授)、東京医科歯科大学の宮冬樹講師らの研究グループは、インスリン様成長因子-1受容体(IGF1R)の遺伝子異常による成長遅滞が考えられる症例について、同遺伝子に同定された多様体(DNAの塩基配列変化)による蛋白質構造の立体障害の大きさと、症例における臨床的重症度が関連することを明らかにしました。

インスリン受容体(INSR)と今回の研究対象のIGF1Rは同じ蛋白質ファミリーに属し、高い相同性があります。これらの遺伝子の多様体は、それぞれ重症のインスリン抵抗性や出生前・出生後の成長遅滞の原因となりうることが知られています。これまでIGF1Rの多様体と疾患発症との関連性は細胞レベルの機能解析などで検討されてきましたが、多大な労力と時間を必要とするだけでなく、個体レベルでの立体構造—機能相関は不明でした。

研究グループはオンラインデータベースに登録されたIGF1Rの機能ドメイン上の多様体に注目し、構造バイオインフォマティクスを活用して自由エネルギー変化量や立体障害の大きさ等を評価して、疾患との関連性について予測システムを作成しました。このような立体構造解析による予測の結果は、培養細胞を用いた受容体の機能解析の結果とも一致していました。

これらの結果から、前記の構造バイオインフォマティクスを活用した予測システムは、IGF1Rの遺伝子異常による成長遅滞の早期診断を行い、適切に治療するために有用な可能性が期待されます。

「我々は以前、INSRの機能ドメイン上の多様体に関して、蛋白質構造の立体障害の大きさと症例における臨床的重症度の関連性について論文報告しました。本研究では、構造バイオインフォマティクスを活用して、同じ蛋白質ファミリーに属するIGF1Rでも同様の関連性を認めることを示しました」と細江特任助教は話します。「INSRやIGF1R以外の様々な疾患と関連する蛋白質の立体構造にも応用することで、各種疾患の解析や治療にも将来的に活用できることが期待されます」と続けます。

インスリン様成長因子-1受容体における蛋白質構造解析
図:インスリン様成長因子-1受容体における蛋白質構造解析
構造バイオインフォマティクスを活用して、機能ドメイン上の多様体における立体障害の大きさを評価し、疾患との関連性を解明しました。
© 2021 細江 隼

論文情報

雑誌名

Diabetes
2021 Aug; 70 (8): 1874-1884.

論文タイトル

Genotype-Structure-Phenotype Correlations of Disease-Associated IGF1R Variants and Similarities to Those of INSR Variants

著者

Jun Hosoe, Yuki Kawashima-Sonoyama, Fuyuki Miya, Hiroko Kadowaki, Nobuhiro Shojima, Toshimasa Yamauchi, Takashi Kadowaki et al.

DOI

10.2337/db20-1145

掲載日

2021年6月1日

研究者

門脇 孝(東京大学 名誉教授)
山内 敏正(東京大学 大学院医学系研究科/医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 教授)
庄嶋 伸浩(東京大学 大学院医学系研究科/医学部附属病院 ゲノム医学研究支援センター 特任准教授)
細江 隼(東京大学 大学院医学系研究科/医学部附属病院 22世紀医療センター 先進代謝病態学講座 特任助教)

共同研究機関

山王病院
鳥取大学
東京医科歯科大学
虎の門病院
島根大学

関連リンク

東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科
東京大学大学院医学系研究科