急性下部消化管出血に対する緊急内視鏡検査の有用性について驚くべき結果が判明

2019年11月15日患者・一般


  • 急性下部消化管出血患者に対して、24時間以内の早期に実施する緊急内視鏡検査が、24時間後~96時間以内に実施する待機的内視鏡検査と比較して、臨床転帰を改善させないことを明らかにしました。
  • 多施設ランダム化比較試験を実施し、従来の治療方針の有効性が限られていることを明らかにしました。
  • 本研究により、急性下部消化管出血の内視鏡診療が大きく変わると考えられます。

研究の概要

東京大学医学部附属病院消化器内科の山田篤生助教、新倉量太助教、小池和彦教授らの研究グループは、全国15病院において、急性下部消化管出血患者に対するランダム化比較試験を行い、24時間以内の早期に実施する緊急内視鏡検査が、24時間後~96時間以内に実施する待機的内視鏡検査と比較して、臨床転帰(出血源同定率、内視鏡治療成功率、30日以内再出血率、輸血率、入院期間)を改善させないことを明らかにしました。

また、多施設ランダム化比較試験を行ったことで、臨床医学において最も厳密に、緊急内視鏡検査の有効性を待機的内視鏡検査と比較することができました。

この研究により、従来の治療方針の有効性が限られていることが明らかになり、急性下部消化管出血の内視鏡診療が大きく変更されると考えられます。

研究の内容

東京大学医学部附属病院消化器内科 山田篤生助教、新倉量太助教、小池和彦教授らの研究グループは、全国15病院において、急性下部消化管出血患者に対するランダム化比較試験を行い、24時間以内の早期に実施する緊急内視鏡検査が、24時間後~96時間以内に実施する待機的内視鏡検査と比較して、臨床転帰(出血源同定率、内視鏡治療成功率、30日以内再出血率、輸血率、入院期間)を改善させないことを明らかにしました。

急性下部消化管出血は、主に大腸から出血を起こす疾患で、よく見られる疾患の1つです。内視鏡検査は出血源の同定や止血治療に有用です。そのため、出血をきたしてからなるべく早期に内視鏡検査を実施することが重要と考えられていました。一方で、早期に内視鏡検査を行っても、再出血をきたしてしまう患者さんもおり、緊急内視鏡検査がその後の臨床転帰を改善しない可能性があることも、別の研究で報告されていました。このため、本当に緊急内視鏡検査が有用なのか、結論が出ていませんでした。

2つの治療法のうち、どちらが優れているのか結論を出すためには、ランダム化比較試験を行う必要があります。ランダム化比較試験では、試験に参加していただいた患者さんを、無作為にどちらかの治療群に割付を行います。この手法を用いることで、患者さんや医師の治療に対する期待効果、プラセボ効果を減らすことができ、どちらの治療が真に有用であるか評価することができます。さらに、1つの病院だけでなく、複数の病院においてこの手法を用いることで、最も科学的に治療効果を判定することができます。

これまでに3つのランダム化比較試験が欧米で行われていました。いずれの試験も1つの病院だけで行われた試験でした。さらに、このうち2つの試験は患者さんの参加人数が予定人数に達することなく終了していました。2019年にオランダから報告された試験は、予定通り132人の患者さんが試験に参加したのですが、緊急内視鏡検査を定められた方法通りに行うことが困難で課題を残しました。

この問題を解決するめに、2016~2018年に東京大学を主施設とした全国15病院において、ランダム化比較試験を行いました。緊急内視鏡検査を受けた79人(平均年齢68.8歳、男性65.8%)と待機的内視鏡検査を受けた80人(平均年齢71.9歳、男性67.5%)を比較しました。99%の患者さんにおいて、定められた方法通りに内視鏡検査を行うことができました。最も頻度が多い出血源は、大腸憩室出血でした(緊急内視鏡検査群の59.5%、待機的内視鏡検査群の64.5%)。

主要評価項目である、出血源同定率は緊急内視鏡検査が21.5%、待機的内視鏡検査21.3%でした(リスク差0.2%、95%信頼区間 -12.5~13.0% p値0.967)。副次評価項目である、内視鏡治療成功率は93.3%対100%、30日以内再出血率は15.3%対6.7%、輸血率38%対32.5%、平均入院期間7.1日対7.6日、30日以内血栓塞栓症1.4%対0%、30日以内死亡率0%対0%であり、緊急内視鏡検査の有用性は確認されませんでした。腸管洗浄に関連した有害事象は、嘔気・嘔吐 5.1%対3.8%、腹痛1.3%対1.3%、心不全0%対0%、誤嚥性肺炎0%対0%、出血性ショック0%対2.5%、出血の増悪39.2%対27.5%、腸閉塞0%対0%、内視鏡に関連した有害事象は、出血性ショック1.3%対0%、穿孔0%対0%でした。

本試験結果によって、急性下部消化管出血の内視鏡診療が大きく変更されると考えられます。緊急内視鏡検査の有用性が証明されなかったため、待機的内視鏡検査が主流になることが予測されます。今後は、本試験に参加された患者さんの追跡調査を行い、長期予後(1年後再出血、1年後血栓塞栓症、1年後死亡)の成績についても研究を行っていく予定です。

図1:緊急内視鏡検査と待機的内視鏡検査の臨床転帰
図1:緊急内視鏡検査と待機的内視鏡検査の臨床転帰

論文情報

雑誌名

Gastroenterology

論文タイトル

Efficacy and Safety of Early vs Elective Colonoscopy for Acute Lower Gastrointestinal Bleeding.

著者

Niikura R, Nagata N, Yamada A*, Honda T, Hasatani K, Ishii N, Shiratori Y, Doyama H, Nishida T, Sumiyoshi T, Fujita T, Kiyotoki S, Yada T, Yamamoto K, Shinozaki T, Takata M, Mikami T, Mabe K, Hara K, Fujishiro M, Koike K,

DOI

10.1053/j.gastro.2019.09.010.

掲載日

2019年9月26日

研究者

新倉 量太(東京大学医学部附属病院 消化器内科 助教)
山田 篤生(東京大学医学部附属病院 消化器内科 助教)
小池 和彦(東京大学医学部附属病院 消化器内科 教授)

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