先天性腎尿路異常の新規原因遺伝子を発見

2020年01月10日患者・一般


  • 先天性腎尿路異常(CAKUT: congenital anomalies of the kidney and urinary tract)の新規原因遺伝子を同定しました。
  • これまでにCAKUTの原因遺伝子は約40種類が知られていますが、既知の原因遺伝子の異常が明らかとなる例は希で、新規原因遺伝子が存在すると考えられてきました。
  • CAKUTは小児腎不全の最大の原疾患です。その病態理解、腎臓再生医療研究に役立てられることが期待されます。

研究の概要

小児末期腎不全は透析や腎移植を要し、患児、家族にとって大変負担のある状態です。その最大の原因は先天性腎尿路異常(CAKUT)です。ですからCAKUTは小児腎臓病学において解決すべき課題の1つです。 CAKUTはさまざまな腎尿路形態異常を含有する概念です。一部は単一遺伝子の異常によって発症することが知られ、約40種類の原因遺伝子が明らかとなってきました。しかしこれらの遺伝子異常が同定される例は15%程度で、新規原因遺伝子が存在している可能性が考えられていました。東京大学医学部附属病院 小児科 特任講師(病院)[助教]、東京女子医科大学 腎臓小児科 非常勤講師の神田祥一郎らは東京女子医科大学、東北大学、兵庫医科大学、熊本大学との共同研究によりCAKUTの新規原因遺伝子Cobalamin Synthetase W Domain-Containing Protein 1CBWD1)を同定しました。CAKUTを有する患者さんに対する全ゲノム解析によりCBWD1が部分欠失していること、また、マウスによる研究から、マウスの発生期にCbwd1タンパクが尿管芽に発現していること、Cbwd1ノックアウトマウスがCAKUTを呈することを明らかにしました。本研究の成果はCAKUTの病態理解や腎臓再生研究のために有用と考えられます。

研究の内容

研究の背景
先天性腎尿路異常(CAKUT: congenital anomalies of the kidney and urinary tract)は腎欠損、低形成腎、水腎症、重複尿管などさまざまな腎尿路の形態異常を含有する疾患概念で、小児末期腎不全の原因疾患の中で最も多い疾患です。小児の患者さんも成人の患者さんと同様に末期腎不全の治療は透析や腎移植を必要とします。これは成長発達段階にある小児患者さんやご家族にとって大変大きな負担となっています。したがって、CAKUTの病因を明らかにすることは小児腎臓病領域における重要な課題の1つです。CAKUTの発症は腎臓の発生異常によるものです。腎臓はヒトでは胎生4週より後腎間葉と尿管芽と呼ばれる細胞集団の相互作用によって発生します。後腎間葉は血液から原尿を作る糸球体、水や電解質のバランスを整える尿細管に分化し、尿管芽は尿を集める集合管、尿管に分化します。その後、尿細管と集合管が融合しネフロンという1つの機能単位が形成されます。ヒトでは1個の腎臓に平均100万個のネフロンが存在していると言われています。CAKUTの発症メカニズム-腎臓の発生異常-には遺伝的要因、環境的要因が考えられています。原因遺伝子はこれまでに約40種類が知られています。しかし、CAKUTを有する患者さんから既存の原因遺伝子の異常が認められる頻度は15%程度であり、未知の原因遺伝子の関与が示唆されています。本研究グループは、CAKUTの病因理解のため、新規原因遺伝子を同定することを目的に研究を行いました。

研究内容
まずCAKUTを有する患者さんとご家族に同意を得たうえで、全ゲノム解析を行いました。すると、既知のCAKUTの原因遺伝子の異常は認められませんでしたが、CBWD1遺伝子が患者さん特異的に部分欠失していることが分かりました。次にCBWD1が腎臓発生に関与していることを証明するためにマウスを用いた研究を行いました。するとCbwd1タンパクがマウスの発生期の腎臓において、尿管芽に発現していることが明らかになりました。最後に、Cbwd1遺伝子のはたらきを抑制したCbwd1ノックアウトマウスを用いて解析を行ったところ、ホモ接合体ノックアウトマウスでは29%、ヘテロ接合体ノックアウトマウスでは4%の頻度でCAKUTを呈することが分かりました(図)。以上の結果よりCBWD1がCAKUTの新規原因遺伝子であることを見出し、証明することができました。

社会的意義・今後の予定
前述の通りCAKUTは小児末期腎不全の最大の原因ですので、その病因を明らかにすることは大変有意義です。また近年、さまざまな臓器の再生医療研究が活性化しています。中には臨床応用されているものもあります。腎臓においても、透析や移植に代わる治療法の開発のため、再生医療研究が各国で行われています。臓器再生医療の実現のためには、まず発生をより深く理解することが必要です。そのため、本研究の成果-腎臓発生に関わる遺伝子の発見-は、腎臓発生の理解を深めるもので、再生医療研究実現の一助となると考えられます。今後は、CBWD1の腎臓発生過程での細胞内での役割や機能など、腎臓発生におけるメカニズムの研究を進めていきたいと考えています。

Cbwd1ノックアプトマウスがCAKUTを呈する頻度


論文情報

雑誌名

Journal of the American Society of Nephrology
31(1), 2020:139-147

論文タイトル

Deletion in the Cobalamin Synthetase W Domain-Containing Protein 1 Gene Is associated with Congenital Anomalies of the Kidney and Urinary Tract

著者

Shoichiro Kanda*, Masaki Ohmuraya, Hiroyuki Akagawa, Shigeru Horita, Yasuhiro Yoshida, Naoto Kaneko, Noriko Sugawara, Kiyonobu Ishizuka, Kenichiro Miura, Yutaka Harita, Toshiyuki Yamamoto, Akira Oka, Kimi Araki, Toru Furukawa, Motoshi Hattori(*責任著者)

DOI

10.1681/ASN.2019040398

掲載日

2019年12月23日

研究者

神田 祥一郎(東京大学医学部附属病院小児科 特任講師(病院)[助教])

共同研究機関

東京女子医科大学腎臓小児科
東京女子医科大学統合医科学研究所
東京女子医科大学遺伝子医療センターゲノム診療科
東京女子医科大学腎臓病総合医療センター病理検査室
東北大学大学院医学系研究科病態病理学
兵庫医科大学遺伝学
熊本大学生命資源研究・支援センター疾患モデル分野