東京大学医学部脳神経外科

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研究紹介

悪性脳腫瘍を術中標識する局所投与型新規蛍光プローブの開発

一般的に脳腫瘍は、手術で腫瘍をできる限り摘出し取り残しを少なくした方が、治療成績が良いことが知られています(Sanai N, et al. N Engl J Med 2008)。しかし取りすぎては脳の機能を失い、術後に言語障害や運動障害を来してかえって不利になりかねません(McGirt MJ, et al. Neurosurgery 2009)。しかも神経膠腫などの悪性脳腫瘍は、手術中肉眼では正常な脳との境界がはっきりしないことが多いため、必要かつ充分な摘出を果たすために様々な手術支援技術が用いられています。蛍光プローブは、腫瘍に色をつけて「見える化」する技術で(図1)、5-アミノレブリン酸(5-ALA)が悪性神経膠腫手術に保険承認され、汎用されています(Stummer W, et al. Lancet Oncol 2006)。


図1.5-ALAによる膠芽腫の術中蛍光識別
(左)白色光下の通常の顕微鏡所見 (右)5-ALAによる腫瘍の可視化

しかし、5-ALAは手術前に内服が必要であること、再投与ができないこと、正確性(偽陽性・偽陰性)の問題など課題があるため、5-ALAに替わる、あるいは補完する、新しい蛍光プローブの開発が望まれます (Kitagawa Y, et al. Front Oncol 2019) 。
我々は、本学大学院医学研究科医用生体工学講座生体情報学教室の浦野泰照教授らが開発した、がん細胞で亢進している酵素活性を特異的に検出するHydroxymethyl rhodamine green (HMRG)を応用したプローブを用いて共同研究を行っています(Urano Y, et al. Sci Transl Med 2011)。平成30年度より国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)橋渡し研究戦略的推進プログラムの助成を基に、投与方法も含め「脳腫瘍の検出用蛍光プローブ」として特許出願しました(特願2019-095102)。加えて、令和2年度よりAMED革新的がん医療実用化研究事業として、「脳腫瘍を術中標識する局所投与型新規蛍光プローブの開発」を行っています。具体的には、特許出願した蛍光プローブの臨床応用を目指して、有効性と安全性を評価する非臨床試験を行うと同時に、対象の腫瘍種を拡大し蛍光プローブの種類も増やして、開発研究を進めています。


図2.新規蛍光プローブによる脳腫瘍の標識

この局所投与型の蛍光プローブが実用化すれば、腫瘍にその場で色をつけることが可能となり、術中診断・手術支援に効果を発揮します(図2)。特に5-ALAがほぼ無効な低悪性度神経膠腫においては、我々のプローブによる術中蛍光診断の臨床的意義が極めて高く、摘出率の改善や無増悪期間の延長が認められれば、国際的にも脳腫瘍における手術戦略を一変させる可能性を秘めています。

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