聴神経腫瘍は耳で聞いた音の信号を脳に伝える神経から発生した腫瘍です。良性腫瘍に分類され、平均して一年間に直径で約2mm弱大きくなるといわれています。増大してくると聴神経のすぐ隣の顔面神経の圧迫により難聴、耳鳴、めまい、顔面神経麻痺が起こってくるようになります。脳(脳幹と小脳)の圧迫が強くなり水頭症を合併するようになってくると、ふらつきや顔の感覚異常が強くなり、なかには意識障害や死に至ることもあります。
耳の後方の皮膚を切開して手術を行います。顕微鏡下に腫瘍を神経から丁寧にはがして摘出します。当教室では古くからこの腫瘍に対する治療実績を有しており、そのノウハウは代々受け継がれ、改善され、治療成績の向上に貢献してきました。大学病院ならではの最新の画像診断機器を用いて手術計画を立て、聴力温存と顔面神経温存のためにABR, CNAPや顔面神経刺激という電気反応の検査を用いて手術を行います。
麻酔から醒めて4階のICUに入室したところで、ご家族には手術経過の説明をします。術後2-3日はめまいと嘔気がありますが、徐々に消失します。7-10日目に抜糸を行い、通常は手術の約2週間後に退院です。
この腫瘍の治療に際しての合併症は、腫瘍に圧迫され弱くなっている聴神経(音を聞く神経)と顔面神経(顔を動かす神経)の麻痺が起こることがあることです。多施設からの報告をまとめた研究によれば、手術治療とガンマナイフ治療のこれらの神経の温存率はほとんど同じで、有効聴力温存率 約5割、顔面神経温存率 約8割となっています。 ガンマナイフではこれらの神経の麻痺が1-2年かけて徐々に起こってくるのに対し、手術では術直後に麻痺があったとしても、その後回復してくるというパターンをとります。
手術で摘出する以外の治療方法としては、小さい腫瘍の場合にはガンマナイフという放射線治療の方法があります。当院では国内第一号機のガンマナイフが導入され、長い治療実績を持ち、今年は最新型機種に更新されます。 手術では、全摘すれば治癒が期待でき、放射線による悪性化の心配がない点が長所です。一方、ガンマナイフは手術と比べて入院期間が短く、重篤な後遺症の可能性が低い点が長所です。大きな腫瘍の場合には手術以外の選択肢はなくなります。 腫瘍が小さい場合には成長速度をみながら経過を観察するのも選択肢の一つとなります。