脳の病気と治療

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ガンマナイフ

ガンマナイフによる治療

ガンマナイフは脳を対象とする特殊な放射線治療装置です。脳の深い部分や重要な機能を担う部分に病気がある場合、大切な機能を温存して病変部だけを選択的に治療することができる画期的な治療機械です。短期間の入院で、局所麻酔下に治療が可能であることから、小児から高齢者まで、全身麻酔下での手術に危険が伴うような状態の方でも、大きな痛みや苦痛を伴うことなく安全に治療が可能です。また、外科手術がどうしても必要な患者さまでも、手術の効果をより優れたものとする補助手段としても有用です。現在普及しているサイバーナイフやノバリスなどの分割照射型治療装置と比較すると、一括でより正確に大量の放射線を照射可能であり、治療精度で最も優れているため、最も安全かつ早期に効果の発現が期待できます。ガンマナイフは、数ある脳疾患に対する定位放射線治療機械の中で、20年以上の長期的な効果と安全性が証明されている唯一の定位放射線治療機械といえます。

ガンマナイフの構造

ガンマナイフでは、201個のコバルト(Co60)線源が半円球状に配列され、ここから発する201本のガンマ線の細いビームが一点に集中するように設計されています。これにより、一つ一つの放射線のビームが貫通する周辺正常脳組織への影響を最小限に抑え、中心部にある病変に対しては通常の放射線治療で用いられるよりも、極めて高い線量の放射線を一回で照射することが可能となります。開頭こそしないものの、0.5 mm以下の極めて高い精度で目標病変に対する一括大量放射線照射を行い、手術と同等の効果を得られることから、「放射線外科手術 (Radiosurgery)」と呼ばれ、脳神経外科領域の新たな治療分野として注目されています。

東京大学病院におけるガンマナイフ治療の特色

国内第一号機の設置以来、最も長期にわたる治療実績と豊富な治療経験

東京大学には1990年にガンマナイフの国内第一号機が導入され、現在までに約2000例以上のガンマナイフ治療を行っております。患者さまの治療成績は、一貫したデータ・ベースに集約されているため、新たな患者さまに対して治療を行う際に、最新のデータに基づいた治療方針を常に提供でき、治療成績の向上に貢献しています。治療後も、定期的に特殊外来でありますガンマナイフ再診外来において綿密な経過観察を続けることをお勧めしています。現在では、最も長期の患者さまで、治療後18年以上にわたる良好な経過を確認できております。ガンマナイフ単独での治療が困難な患者さまについては、様々な専門領域をもった脳神経外科の全スタッフが集まり、治療方針を検討します。手術、血管内治療、そのほかの治療手段との組み合わせで、一人一人の患者さまに最も適した治療方針を提示させていただきます。また、実際の線量計画と照射に際しては、脳神経外科の専門医と放射線物理学に精通した放射線科の担当医とチームを組んで詳細な検討を加えた上で治療を行っています。

新しいテクノロジーの導入による正確かつ快適な治療

当科では、2006年10月以降、新たに第4世代のガンマナイフ治療機でありますガンマナイフ4Cに機種の更新を行いました。この機種では、従来マニュアル操作にて行っていた照射座標の確認とセッティングを、APS(Automatic Positioning System)というロボット化された装置が行うことで、短時間でより細かく正確な線量計画によるガンマナイフ治療が可能となりました。以前の治療では、照射する座標を変えるたびに患者さまの頭部にセットした座標固定装置を確認する必要があり、その都度、患者さまに起き上がっていただく必要がありました。APSの導入により、自動的に座標が移動するため、患者さまは治療中一貫して楽な姿勢でいていただくことが可能となり、より快適な治療を提供することができるようになりました。このガンマナイフ4Cでは、治療日以前に施行したPET、CT、詳細なMRIといった様々な種類の画像検査を治療計画に導入して、生かすことができるために、多岐にわたる有益な情報を用いた治療計画が可能となっています。またこの機種にはが装備されました。

              当院において現在使用されているガンマナイフ4C

最新の画像イメージングによる安全性を追求した治療

通常、ガンマナイフの治療で使用されるMRIなどの画像では、脳の形や病変部の位置を確認することはできますが、運動や視覚、言語に関与する神経線維がどこを通っているかについては、正確に描き出すことは困難でした。当院では、放射線科の協力により、これらの神経線維の走行を描き出すトラクトグラフィーという技術開発し、これをガンマナイフの治療にも応用しております。現在までの治療計画のデータから、これらの神経線維がどの程度の放射線照射に耐えうるかを分析し、実際の治療ではこれら神経線維への照射を安全範囲に抑えることで、麻痺、視野障害、言語障害といった合併症を生じる可能性を限りなくゼロに治療を行っています。

運動神経線維のトラクトグラフィー(橙)を併用した治療

対象となる疾患

ガンマナイフが適応となる脳疾患は多岐にわたります。脳血管障害では、脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻などの出血性疾患が治療のよい適応となります。また、脳腫瘍では、転移性脳腫瘍をはじめとした悪性脳腫瘍から、聴神経腫瘍、髄膜腫、下垂体腺腫といった良性脳腫瘍まで、幅広い疾患に効果があります。また現在のところ保険外診療となっておりますが、機能性疾患である三叉神経痛や薬剤難治性の手の振えなどに対しても一定の有効性が示されております。

一般的には直径3 cm以下の脳の比較的小さな病変が対象となりますが、近年は照射精度の向上に伴い、治療部位や体積によっては、長径が3 cm以上あっても治療可能な場合も増えてきています。基本的な治療の適応については、患者さま一人一人のこれまでの経過、現在の症状、年齢などを考慮してガンマナイフ治療を専門とする医師が、それぞれの疾患の専門医と相談して判断させていただきます。

脳動静脈奇形:

治療適応の目安 直径3 cm以下あるいは、長径は長いが体積として概ね15 cc以下。手術で安全に摘出することが困難な部位の病変でも安全に治療可能です。
治療後の経過 通常3年から5年で異常血管の閉塞に至ります。当院での過去のデータの解析から、治療後閉塞までの期間においても出血のリスクは低下していることが明らかになりました。
東大病院における治療の特徴 当院におけるガンマナイフの対象となった良性疾患のうち、最も多いのが脳動静脈奇形で、これまでに約700例の治療を行っております。神経線維が近く治療が難しいものに対しては前述のトラクトグラフィーを併用して綿密な治療を行います。また有効性の確立した治療ではありませんが、出血を繰り返すような大型脳動静脈奇形に対しては近年、多段階ガンマナイフ治療(半年程度の間隔をあけ、2~3回で治療を行います。)を行う場合もあります。

左前頭葉運動野近傍脳動静脈奇形(左)に対しガンマナイフ治療を行い、3年後(右)に閉塞を確認。(脳血管撮影像)

左前頭葉脳動静脈奇形(左、矢印の黒く抜けている部分)に対しガンマナイフ治療を行い、2年後(右)に閉塞を確認。(MRI)運動神経線維のトラクトグラフィーを合成し、治療後麻痺を来さず経過。

東大病院における治療後の経過観察

脳動静脈奇形の治療後の経過観察として以前は定期的に脳血管撮影を行っておりましたが、現在はMRIの進歩に伴いMRIおよびMRDSAによって脳血管撮影に準ずる情報が得られるため、最終確認のみ脳血管撮影を行うことで、侵襲的な検査を減らす工夫をしています。

  カテーテル検査を行わずに血流の時間的変化を捉えることのできるMRDSA

 

硬膜動静脈瘻:

治療適応の目安 横静脈洞、S状静脈洞等の硬膜動静脈瘻。耳鳴り等の症状で日常生活に支障を来すもののうち、頭蓋内逆流を伴わないもので、血管内塞栓術が困難あるいは、血管内塞栓術後の残存。
治療後の経過 通常1年から3年で異常吻合血管の閉塞に至り、頭蓋内逆流等も消失します。

小脳テント硬膜動静脈瘻(左)に対しガンマナイフ治療を行い、2年後(右)に動静脈瘻の閉鎖により拡張した静脈(矢印)が消失したことを確認。(上:MRI、下:椎骨動脈撮影)

 

聴神経腫瘍:

治療適応の目安 直径2.5 cm以下のもので嚢胞成分が目立たないもの。術後残存腫瘍が増大傾向にある場合。特に高齢であったり全身状態が不良で全身麻酔のリスクが高いような場合には、ガンマナイフが推奨されます。
治療後の経過

左聴神経腫瘍(左)に対しガンマナイフ治療を行い、3年後(右)縮小を確認。

東大病院における治療の特徴 当院ではこれまでに約300例の治療を行っております。2001年以降線量を下げて治療を行い、90%以上の腫瘍制御を維持しつつ70%程度の有効聴力温存を得ています。

髄膜腫:

治療適応の目安 手術による危険性が高い部分(頭蓋底など)に生じた病変で、小さく(10 cc 未満程度)かつ悪性所見が疑われないもの。静脈洞、脳幹といった構造との関係で、術後残存させた場合。
治療後の経過

大脳鎌髄膜腫(左)に対しガンマナイフ治療を行い、3年後(右)やや縮小し、内部の増強効果が弱まっているのを確認。

東大病院における治療の特徴 当院ではこれまでに約300例の治療を行っております。症例に応じては手術を併用することなどにより小さな頭蓋底髄膜腫では5年で100%と良好な腫瘍制御が得られています。

転移性脳腫瘍:

治療適応の目安 直径3 cm以下、個数としては4個以下を目安とし、全脳照射との併用あるいは単独で治療を行います。全脳照射後の再発の場合には数が多くても、ガンマナイフ治療で可能な範囲で対処します。また、放射線感受性の低い腎細胞癌、悪性黒色腫等の脳転移においては、全脳照射の有効性が低いため、状況によってはガンマナイフ単独での治療も検討します。
治療後の経過

左運動前野への卵巣癌脳転移(左)に対しガンマナイフ治療を行い、1年後(右)まで縮小した状態を維持しているのを確認。

一部の神経膠腫:

東大病院における
治療の特徴

浸潤性の高い神経膠腫の場合、一般的にはガンマナイフ治療の適応となり難いですが、初期の放射線化学療法の後に再発した場合に、他の治療法と併用しながらガンマナイフ治療を行う場合があります。当院では小さい状態で発見された再発に対しては積極的に応用しています。

放射線化学療法終了後再発した神経膠芽腫(左)に対しガンマナイフ治療を行い、7ヶ月後(右)まで明らかな再発なく経過。

 

三叉神経痛:

治療適応の目安 薬物療法や神経ブロックが無効であり、全身麻酔の危険性が高い場合。神経血管減圧術が無効であったものや術後に再発したもの。

 

 

治療の実際

治療は一日で終了します。原則として治療前日に入院していただき、治療翌日に退院していただきますので、二泊三日の入院となります。退院後はすぐに元通りの生活に戻っていただくことができます。ガンマナイフ治療は上記のうち三叉神経痛以外は保険適応となっており、治療費は50万円です。3割負担の場合には、お部屋の種類にもよりますが、窓口でお支払いいただく金額は概ね20万円弱となります。

治療前日: 入院当日にMRIやレントゲンなど、必要な検査を行います。また翌日の治療につき再度担当医よりご説明いたします。
治療当日:

朝から準備を行います。まず頭部のフレームを装着します。痛みを伴うような印象がありますが、実際には軽度の沈静(眠った状態)と十分な局所麻酔を用いますので、自覚される痛みは十分に和らげられます。

 フレームの装着(ガンマナイフサポート協会http://www.gammaj.org/より)

その後、フレームを装着した状態で、治療計画用の画像検査を行います(原則としてMRIを行いますが、血管障害の場合には脳血管撮影も併用します。)。画像検査終了後、担当医がコンピューターソフトを用いて治療計画を行いますので、その間お部屋でお休みいただきます。

治療計画が終了しましたら、実際の放射線照射を行います。放射線照射においては音や痛みなど自覚されるものはありません。患者さんが治療を受けられる治療室にはビデオモニターがついており、隣の操作室で確認できるようになっています。また双方にマイクが装備されているため、担当医とコミュニケーションをとりながら治療を進めていくことができます。治療時間は病変の種類、数、大きさによって大きく異なりますが、通常30分から数時間の間です。

治療終了後すぐに頭部のフレームを外します。その後はお部屋でお休みいただきますが、すぐに歩行や食事を始めることができます(脳血管撮影を行った場合は、脳血管撮影終了後6時間から歩行可能です。)。治療後、担当医がどのような治療を行ったかについて説明いたします。

治療翌日: 担当医による状態の確認のうえ、ご退院いただけます。退院当日より元通りの日常生活にお戻りいただけます。

受診方法

東大病院の外来は、原則として予約制となっております。東大病院予約センター 03-5800-8630 (受付時間:平日午後1~5時)に電話をしていただき、月曜日か水曜日の午前中の脳神経外科・ガンマナイフ初診外来を予約して下さい。ご紹介いただく担当の先生に紹介状と画像フィルムを用意してもらい、受診の際にご持参ください。

ご紹介いただく先生へ

紹介状と画像フィルム(MRIや脳血管撮影など)を患者さまにお渡しになり、月曜日か水曜日の午前中の脳神経外科・ガンマナイフ初診外来を受診していただいてください。画像フィルムはオリジナルでもコピーでもどちらでも結構です。オリジナルの場合は後日お返しいたします。外来を予約していただいた場合は、基本的に電話でご連絡いただく必要はありませんが、遠方で患者さまの外来受診が難しい場合や、治療適応の判断に迷われる場合などには電話や電子メールでのご相談にも応じます。

ガンマナイフ治療担当医

花北俊哉、辛正廣

東京大学医学部附属病院 脳神経外科
〒113-8655 東京都文京区本郷7-3-1
電話 03-3815-5411(代表)

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