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手術紹介

脳腫瘍

神経膠腫(グリオーマ)

神経膠腫(グリオーマ)

 

神経膠腫の治療は、手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤)が標準的な治療法です。しかし残念ながら、これらの標準的治療法をもってしても治療が難しい患者様が数多くおられます。そこで、我々はこれらの標準的な治療を確実に行うとともに、新しい治療法についても積極的に取り入れながら、個々の患者様において最善と思われる治療に取り組んでいます。

 

項目 診断・検査

               手術

               腫瘍の遺伝子解析と分子・病理診断

               放射線治療

               化学療法

               再発時治療

               新しい治療法

 

診断・検査

神経膠腫の手術・治療をするためには、適切な診断・脳機能評価が不可欠です。東大病院では、通常のCT MRI検査などの他に様々な検査を必要に応じて行っております。

例えば以下のような最先端の技術を用いることで、腫瘍と脳の大事な領域との関係を知ることができます。

l         fMRI(functional MRI, 機能MRI)

高画質で安定した画像が得られる3テスラMRIを用いて、言語課題をしながら撮影することにより、優位半球前頭葉の言語野を同定することができます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


1:言語課題をしながら撮影したMRI。言語野の血流が増加し、画像で同定されます。

 

l         トラクトグラフィー

運動や言語の機能を伝える神経線維を描き、腫瘍との関係を示しています。これにより、障害を出さずに腫瘍を最大限摘出するための手術戦略を立てることができます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


2:腫瘍に近接する脳の神経線維を3次元的に描き、位置関係を示しています。

 

l         MEG(Magnetoencephalography, 脳磁図)

  脳機能を調べる方法で、日本でも限られた施設でのみ可能な非侵襲的な検査です。

l         ECoG(Electrocorticography, 皮質脳波)

l         NIRS(Near-infrared spectroscopy, 近赤外線分光器)

l         脳血管撮影/和田テスト

l         高次脳機能評価、訓練

 

その他、以下のような検査にて腫瘍の性質や病態に関しまして詳細な解析を行います。

l         MRS(MR spectroscopy)

l         SPECT(Single Photon Emission CT)(スペクト)

l         PET(Positron Emission Tomography)(ペット)

SPECTと共に核医学検査といわれる方法で、腫瘍の性質を詳しく知ることが出来ます。脳腫瘍では、グルコース(ブドウ糖)の取り込みを検査するFDG-PETが保険適応となっておりますが、アミノ酸の取り込みを調べるメチオニンPETも必要に応じて行うことが出来ます。これは、一般的なFDG-PET以上の診断的価値を有することもしばしばあり、手術前の診断のみならず、放射線の影響や再発との鑑別診断などにも威力を発揮します。

 

手術

手術でできるだけ腫瘍を取り除くことが予後の改善につながると言われますが、腫瘍の部位によっては腫瘍を摘出することで麻痺、失語、意識障害などの重篤な合併症が起こる危険があります。

そこで上記のような検査所見から脳の大事な領域と腫瘍との関係を同定し、手術においても症状を悪化させないよう最善の方法をとって、腫瘍をできるだけ摘出します。

つまり我々は、生活に支障をきたすような症状の悪化を生じない範囲で、出来る限りの腫瘍の摘出を目指しています。

その様な手術は、執刀医はもとより、各分野に精通した医師らによる緊密な協力体制により成り立っております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3:ナビゲーションシステム…腫瘍、重要な脳領域、神経線維の位置情報を術中に示すことにより安全でより確実な手術が可能となりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4:機能MRIやトラクトグラフィー, 脳磁図などを統合して画像を作成し、ナビゲーションシステムおよび覚醒下手術を用いて安全確実な手術を目指します。

 

手術中はナビゲーションシステム(3)を用いて腫瘍を正確に摘出していきますが、運動野や言語野、大事な神経線維や血管の走行などと、腫瘍の画像を融合させる技術が安全確実な手術をサポートしています(4) 術中の脳機能のモニタリングとして、MEP, SEP, VEP, ABRなどの電気生理学的モニタリングを適宜行うことで麻痺などの神経症状の悪化を防ぎます。また、言葉の機能を担う領域に近いところの腫瘍を摘出する際には、患者様に手術中に目を醒まして頂く麻酔の技術を用いて、会話をしながら言語機能を確認しつつ、症状を悪化させない範囲で最大限の腫瘍摘出を行います(覚醒下手術)

 

実際の手術例(5)として、優位半球前頭葉で運動野と言語野に接した膠芽腫の患者様をお示しします。腫瘍は運動野と言語野に接しており、摘出すれば重度の麻痺と言語障害が出現する危険が高いのですが、今までお示しした様々な検査と解析を行い、ナビゲーションガイド下覚醒下手術をすることで、問題となるような麻痺や言語障害を残すことなく腫瘍をほぼ全摘出しています。

 

 

 

 


Semantic paraphasia

 

5:術中写真と手術前後のMRI

 

 

腫瘍の遺伝子解析と分子・病理診断

 腫瘍の病理診断は、脳腫瘍に関して経験豊富な病理診断医によってなされます。さらに、この従来からの病理診断に加えて、最新の科学技術を用いた遺伝子解析や分子病理診断を追加して腫瘍の性質を見極め、適切な術後治療(放射線治療、化学療法など)の選択を行うことを目指しております。

その一例として、乏突起細胞系腫瘍の患者様に対しては、腫瘍における染色体1番短腕、19番長腕の欠失を全例において調べ(図6)、診断と治療選択の参考にしています。現在では一般に広く行われるようになった検査ですが、当院においては有効性の最初の報告があった平成10年頃より継続してこの検査を行っており、長年にわたり多くの経験を重ねております。   

図6 染色体欠失の検査の一例。上段のそれぞれ2つずつあるピーク(2本の染色体に対応)が、下段の腫瘍では1つずつであり、該当部位の染色体が欠失していることが分かる。

 

放射線治療

悪性神経膠腫の多くは、術後に放射線照射と化学療法を行うことで生存期間が延長することが証明されており、標準的には腫瘍局

所に総線量60Gy程度を1か月半ほどかけて分割照射します。東大病院では、高性能放射線照射装置(7)を用いコンピューターで照射野を計算して精密な照射を行っています。

 

 

高度イメージガイド下放射線治療装置での放射線治療

 

 

 

 

 

 

 

 

7   高度イメージガイド下放射線治療装置での放射線治療

 

 悪性度の高い神経膠腫では、放射線治療を行っても短期間に再発を起こすことが少なくありません。東大病院では放射線の線量を上げて、80Gy照射することで悪性神経膠腫での治療成績改善を認めた報告をしています(Lancet Oncology 2005, 田中実ら)。図7に東大病院で治療をうけた患者様方の生存曲線を示します。放射線の線量を増やすことで、生存率が高まっていることが分かります。但し、放射線照射の副作用の危険性も高まるため、実際の治療は患者様と十分に相談したのちに決定することになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


7:悪性神経膠腫患者様の生存曲線;緑線が80Gyを照射した群で、赤線が通常の照射群です。(グラフの縦軸が生存している人の割合、横軸が月数の経過を表しています。)

 

ガンマナイフ

 再発時には、腫瘍のタイプと再発様式によってはガンマナイフの適応になることもあります。東大病院では、1990年に日本で初めて導入されて以来、脳外科領域の他疾患に対して世界有数の経験を持っており、必要な際は当院にて迅速にガンマナイフを行うことができます。

 

化学療法

悪性神経膠腫に対しては、多くの場合で放射線照射に加えて主にテモゾロミド(テモダール)という内服の抗がん剤を用いて治療をします。テモゾロミドは日本では20067月より保険適応となった薬剤で、現在悪性神経膠腫に対する世界的な標準治療薬です。当院では、保険適応以前より患者様に投与をしており、豊富な使用経験を積んでおります。副作用の程度を確認しながら、外来にても一定の期間、継続投与を行っていきます。

 

 

再発時治療

上記のようにして、最大限の努力をして治療を行いますが、残念ながら再発することも少なくありません。この場合、症状の進行を少しでも遅らせるように、また、初発時の組織診断と若干異なるものに変化している場合がありますので、新たな組織診断のために手術(生検)が再び必要なことがあります。初発時と同じような綿密な検査と相談ののち、治療法を決めます。手術が可能な場合は再び切除術を行います。その後の放射線の追加照射は困難なことがありますが、ガンマナイフなどにより治療できることもあります。化学療法もしばしば薬剤を変更して行っております。

 

 

 


 それらの治療のほかに、私たちは次のような新しい治療法を行っています。これらには研究段階の治療法もあり、効果や副作用などにつきましては事前に詳しくご説明いたします。

 

新しい治療法

分子標的治療

 分子標的治療は、体内の特定の分子を狙い撃ちしてその機能を抑えることにより病気を治療する治療法です。癌細胞と正常細胞の違いをゲノムレベル・分子レベルで解明し、癌の増殖や転移に必要な分子を特異的に抑えることで治療します。欧米では新生血管を抑えるなどの効能を持つアバスチン(ベバシズマブ)という分子標的薬が使用されており、再発膠芽腫の治療成績を向上させた報告がなされています。日本ではまだ脳腫瘍に対しては保険認可されておりませんが、東京大学脳神経外科においてアバスチンの適応外使用ができるように、現在治験審査委員会にて審査提出中です。

 

免疫療法

  樹状細胞(Dendritic Cell, DC)療法:

腫瘍を樹状細胞という細胞に認識させることで免疫反応を高め、抗腫瘍免疫により効果を期待する治療法です。当院ではGrade3および4の星細胞系腫瘍の再発の方を対象としています。治療に先立ち、手術で腫瘍組織を採取することが必要になります。一般的なホルマリン固定の腫瘍検体では治療に用いることができません。

 

  ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)ワクチン療法:

脳腫瘍は他の腫瘍や癌と同様、腫瘍を栄養する血管(腫瘍新生血管)ができることによって腫瘍が増大します。東京大学脳神経外科では輸血部と共同で、再発脳腫瘍の方を対象に、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)をワクチンとして用いる抗血管新生療法を臨床研究として行っています。

 

硼素(ほうそ)中性子捕捉療法(BNCT): 

放射線治療法の選択肢の1つとして、硼素中性子捕捉療法を臨床研究として実施しています。この治療法は、硼素化合物を点滴で投与した上で、腫瘍のある部位に熱外中性子という特殊な放射線を照射すると、硼素化合物を取り込んだ細胞のみが反応して死滅することを利用します。

*20091月現在、加速器の使用ができないためBNCT治療は行うことができません。

 

ウイルス療法:

ウイルス療法とは、腫瘍細胞に限定して増えることができる遺伝子組換えウイルスを用いて腫瘍細胞を破壊する治療法です。悪性脳腫瘍に対しては、単純ヘルペスウイルスを用いた臨床試験が欧米ですでに行われています。東京大学でもウイルス療法に関する基礎研究と臨床試験にむけた準備が行われていますが、20091月の段階では臨床試験はまだ行っておりません。


 今後とも、常に最新の科学的情報・技術を取り入れ、最善の治療を提供していくことを目指しています。

東京大学脳神経外科では、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG; http://www.jcog.jp)にも参加しており、脳腫瘍患者様の未来のためにも、今後のよりよい治療法の選択への貢献をしていきたいと考えております。


脳腫瘍外来受診を希望される方へ

疾患・治療に関するご相談につきましては、東京大学病院の、担当医の外来を受診してください。その際、過去におとりになられた画像(MRICTなど)や検査結果、現在かかりつけの医師からの紹介状などがありますと、病状の判断に大変役立ちますので、出来る限りお持ちください。一人一人の患者様をしっかりと診察させていただくため、「脳腫瘍外来」は完全予約制とさせていただいております。お手数ですが、東京大学医学部附属病院の外来予約センター(03-5800-863012:3017:00)に電話をして予約をお取りください。

 

担当医師

脳神経外科 武笠 晃丈 (むかさ あきたけ)

連絡先

 

 

 

 

外来受診

東京大学医学部附属病院
113-8655 東京都文京区本郷
 7-3-1
電話 03-3815-5411(代表)

e-メール:mukasaa-nsu@h.u-tokyo.ac.jp

 

脳腫瘍外来(毎週水曜日、金曜日午前)

完全予約制です。外来受診につきましては、東京大学医学部附属病院のホームページ(http://www.h.u-tokyo.ac.jp/)を、御参照ください。

 

 

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