東京大学医学部脳神経外科

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脳の病気と治療

頭蓋底腫瘍(特に良性脳腫瘍)

頭蓋底腫瘍は頭蓋骨の底部に発生する腫瘍の総称です。100年も前からこれらの疾患に対する治療が試みられていますが、腫瘍が脳の深部にあること、また多くの重要な神経組織や血管などが近くにあるため、危険性が高く、治療成績は思わしくありませんでした。しかし近年では、顕微鏡を用いた手術が応用され、また新しい手術方法、進路が開発されて手術成績はかなり向上してきています。
一方、放射線治療の方法もガンマナイフなどの導入によってかなり正確にまた他の神経組織を傷めることなく行うことが可能になり始めています。
化学療法も進歩し、近い将来にはウイルスや遺伝子を用いた腫瘍撃退療法が開発されるであろうと考えられています。

頭蓋底腫瘍の種類

良性 髄膜腫、神経鞘腫、下垂体腺腫など
中悪性 脊索腫、軟骨肉腫
悪性 転移性腫瘍、耳・鼻咽喉原発癌、眼窩癌、肉腫、嗅神経芽腫

診断と症候

症候:

頭痛/吐き気 頭重感、吐き気
脳神経の麻痺 視力の低下、視野欠損(みえなくて車をぶつけてしまう)、ものが2重に見える、顔の麻痺(非対称)、顔の痛み、痺れ 聴力の低下(電話が聞こえない)、声のかすれ、ものが飲み込みにくい、むせる、舌が動かない、首が痛い。
バランスの悪化 歩きにくい、手が動かない

など
症候の変化は腫瘍の場所、成長速度で異なります。概して症候が急に悪くなるものは悪性度の高いものが多いが、そうで無い場合もあります。

診断:CTスキャン、MRI, 血管撮影など

特にMRIの普及によってとても小さな腫瘍まで見つかるようになりました。また大きな腫瘍についてはその進展の度合いおよび血管の巻き込みや脳への浸潤などが把握できるようになっています。
早期の診断は予後を改善します。特にものが2重に見えたり、ものが飲み込みにくいなどの症状がありましたら、近くの医師、神経内科、脳神経外科医を受診しましょう。

治療と予後:

手術: 最初に述べましたように手術療法は日進月歩です。特に神経鞘腫(聴神経鞘腫、三叉神経鞘腫)などの神経繊維原発の腫瘍は頭蓋底アプローチまた電気生理学的なモニターを用いてかなり安全にまた近傍の神経の機能(聴力、顔面の動き、顔の感覚)も極めて高率に温存できるようになってきました。現在経験の豊富な施設では聴神経腫瘍における顔面神経の温存率は90%以上、聴力の温存も腫瘍が2cm以下で手術前に聴力良好の場合、50%程度の患者さんで温存することが可能になっています。
しかし、髄膜腫においては話はそう簡単ではありません。髄膜腫は脳表面の硬膜・くも膜絨毛から発生する腫瘍で、脳の上方にできる場合は手術で全摘出することが比較的容易です。しかし、これが脳の底部にできると大切な血管や、神経を巻き込んでしまうため、摘出は非常に丁寧に行わなければなりません。それでも小さい血管を損傷してしまって、大変な麻痺が残ったり、脳神経を損傷して、顔のしびれや麻痺、複視などが手術後みられることが多いのです。
当院では近年はナビゲーションシステムなどを使って(当院には平成11年6月から入ります)、腫瘍の大部分を安全に摘出し、危険な部分は意識的に残し後日、ガンマナイフなどの治療を行うという治療が進められています。ガンマナイフは未だ歴史の浅い治療法ですが、腫瘍が小さければかなり良好に長期にわたって腫瘍の成長を押さえることが立証されています。

図は最近の症例:54歳女性、右顔面のしびれと右耳の聞こえが悪くなり来院。CT, MRIで脳幹を圧迫する腫瘍が発見された。耳の後ろに皮膚切開をおき腫瘍を全摘出している。手術後顔面の麻痺はみられず、しびれ、聴力は改善傾向にある。(本人の了解を得て掲載)

造影MRI MRI CISS画像 手術後CT:腫瘍は全摘されている
ガンマナイフ線量曲線

 図はガンマナイフで治療された髄膜腫の症例:偶然発見された海綿静脈洞の髄膜腫である。このような部位にある腫瘍の手術は熟練した術者また高度の医療技術をもってしても目の動きの障害や顔のしびれ感などの合併症が発生しやすく、安全な手術とは言い切れません。そこでこのような小さな腫瘍や偶然発見された無症候性の腫瘍の場合はガンマナイフ治療で比較的長期の腫瘍の安定が見られています。この患者さんの腫瘍も5年を経た現在、腫瘍の拡大は見られていません。(患者さんの承諾を得て掲載) 

この様な症例ではどこまで手術でとりどこからガンマナイフが安全かという点の判断が困難ですので、当院ではガンマナイフ専門外来を設け頭蓋底手術の専門とガンマナイフ専門の医師との徹底的な話し合いの後に治療方針を決定しています。

下垂体腫瘍については、いままでのハ-デイ手術でも十分良い結果が得られていますが、近年の内視鏡技術の進歩によって、片方の鼻の穴から、さらに小さい侵襲の少ない手術方法がとられるようになってきています。大多数の患者さんで手術後鼻のパッキングを必要とせず、呼吸も楽ですし、痛みも軽減されています。しかしホルモンを産生する腫瘍の場合は、手術の予後は術前のホルモン値、また手術で如何に腫瘍を確実にとるかが問題となります。ここでも早期診断が重要になりますし、また熟練した術者を選ばれることが大切です。又最近は再発腫瘍に対して、ガンマナイフの有効性が示されています。また現在様々な内服(パーロデル)または静脈注射治療薬(サンドスタチン)が使用されつつあります。現治療の最前線を受けるためには専門の内分泌医の意見及び脳神経外科医の意見を求めることが大切です。
中悪性度の主要は比較的放射線感受性が低く、手術でできるだけ根治的に摘出する必要があります。しかしそれでも数年毎に再発を繰り返す症例が多く、化学療法、また遺伝子療法の開発が待たれる領域です。近年は内視鏡手術の技術が向上したことで、手術単独での治癒率が上がっています。ガンマナイフはあまりこの系統の腫瘍には効果はないといわれてきましたが、徹底的な手術治療後にガンマナイフを行うことで、サイクロトロンを利用した重量子線放射と同等の有効性をより安全に達成できるようになりました。
悪性の腫瘍においては治療の主体は化学療法と放射線療法になります。耳鼻科、眼科、脳神経外科、形成外科などが協力して腫瘍を摘出する複合手術も限られた症例ですが有効な例があります。この領域も遺伝子療法の開発が待たれる領域です。
一般に頭蓋底の腫瘍は多くのエクスパート(脳外科、耳鼻科、形成外科、眼科、リハビリテーション科、放射線科など)の治療への参加が必要になります。それでも合併症の多い病気ですので、これらの疾患の治療に熟練した医師の常勤する施設で治療を受けられることをお勧めします。

早期診断・治療をするために新しい機器/技術が万能というわけではありません。新しい機器を乱用するのは医療費の無駄ですし、ただやみくもに検査をしても患者さんの負担をふやす一方です。診断効率も極めて低くなります。一方、もし診断・治療が遅れると、治療の予後は未だ良好とは言えません。些細な症候でも見のがさずとらえ早期に診断できる能力も大切です。慎重な問診・診察(従来の医療)がここでも大切なわけです。大きな最新の機械をそなえた大病院で何時間も待って素っ気無い診察を受け、検査に何か月も待つ様なことをするより、そのような能力を備えた優れた掛かり付けのお医者さんをさがし、いざと言うときには緊急で紹介してもらえるようにしておくことも大切でしょう。

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