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難治性てんかんの外科的適応  

担当医による詳しい解説

難治性てんかんの外科的適応:手術した方がよいのはどのような場合?
手術できないのはどのような場合?

てんかん手術の実際

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手術した方がよいのはどのような場合?
手術できないのはどのような場合?

日本では特殊な歴史的事情により難治性てんかんに対する外科的治療の役割が過小評価されてきた傾向があります。しかし、最近の診断検査におけるめざましい進歩、手術手技の改良に加え、いろいろな手術治療の成果が国際的に認められるようになって、日本でもてんかん診療における外科的治療の重要性が注目されるようになってきました。しかし、外科的治療には、手術に本質的に伴う危険性もあります。どのような場合に手術を考えた方が良いのか、また、どのような場合には手術はできないのか、という判断(手術適応の判断)は医師にとっても難しいもので、てんかんやその外科的治療に関する専門的な知識と経験が要求されます。

難治性てんかんに対する外科的治療の適応について、明文化された統一的な判定基準は今のところ存在しませんが、判断の基準としては、「適切な薬剤治療にもかかわらず(薬剤治療に対する抵抗性)、個々の患者さんにとって支障の大きい発作が継続している状態(発作の障害性)に対し、手術治療による合併症を起こさずに、または最低限許容しうる程度に抑えつつ、発作による障害の減少(必ずしもすべての発作の完全消失を意味しない)が手術治療によって得られるかどうか」を基本的な考え方とします。最近では、迷走神経刺激療法やガンマナイフ治療のような準外科的治療とも言うべき、より低侵襲の新しい治療法も出現してきていますが、判断の基準は同様です。

てんかんに対する外科的治療は高度に専門的な診療を要するので、てんかんに対する外科的治療を日常的に行っている専門施設において行われるべきものです。外科的治療が考慮される場合は、一次的な担当医の先生から専門施設へ紹介される段階と、専門施設において実際に手術治療を行う段階との二つのステップで手術適応の判断がなされることになります。ここでは、どのような場合に専門施設への紹介を考えるべきなのかについて解説します。

1. 適応判断における発作の薬剤抵抗性と日常生活に対する障害性

まず、発作がてんかん性のものであり、適切な抗てんかん薬による治療が試みられていることが大前提となります。参考までに、NIH Consensus Development Conferenceで提唱された「外科的治療を考慮する前に評価されるべき点」を表1に記します。てんかんの診断の下に抗てんかん薬による治療を開始した患者さんの10-30%で発作のコントロールが不良です。このような薬剤抵抗性のてんかんは、通常、「3種類以上の抗てんかん薬を単独使用、または併用使用したにもかかわらず発作が続く場合」と定義されることが多いようです。ただし、抗てんかん薬の有効性は、発作型や症候群分類によって異なるので、適切な薬剤が選択される必要があり、各薬剤は血中濃度を目安として、副作用が出現しない程度にまで増量されていることが前提となります。

表1 外科的治療を考慮する前に評価 されるべき点
(NIH Consensus Development Conference, 1990)

  1. てんかんに現在罹患しており、非てんかん性発作が除外されていること
    心原性失神、心因性発作、その他のてんかん類似発作に注意する
  2. てんかんの発作型と症候群が明確にされること
    原発性と二次性てんかん、部分発作、強直間代性発作などは、それぞれ反応する薬剤や有効な手術法が異なっている
  3. てんかん発作の原因となりうる代謝性または器質的異常を同定するべく適切な診断検査がなされていること
  4. 適切な抗てんかん薬治療が試みられていること
    服薬のコンプライアンスや薬効評価も適切になされていること
  5. 患者と家族が、発作型、利用できる薬剤の種類と副作用、外科的治療の選択肢などについて十分な説明を受けていること

発作による障害性の評価では、「週に一回以上」などと頻度のみを重視して判断することは無意味で、発作による生活上の支障を総合的に考慮する必要があります。発作頻度もさることながら、患者さんの家庭環境、社会環境、発作型や発作の起こりやすい時間帯などを充分勘案しなければなりません。何らかの事情によりてんかんに罹患していることが社会環境から許容されないような場合には、たった一度の発作により社会生命が危機に陥る可能性もあります。一方、夜間睡眠中に毎晩のように部分発作が出現していても日常生活にはほとんど支障がない場合もあります。意識減損を伴う発作では外傷や熱傷の危険が高く、交通事故や入浴中の発作で生命が脅かされる場合もあるので、頻度が低くとも支障が大きいと言えます。

 また、抗てんかん薬により発作がコントロールされていても、薬の副作用により日常生活に障害が生じることもあります。ほとんどの抗てんかん薬は、精神活動、運動機能、美容上の支障など日常生活に何らかの影響をもたらす副作用が出現する可能性があります。抗てんかん薬の血中濃度が通常の至適範囲にあっても副作用の出現にはかなり個人差があり、さらに副作用に対する受けとめ方も個々の患者さんの家庭環境や社会環境によって異なります。「抗てんかん薬の大量服用により発作は抑制されているが、日中眠くて仕方がなく仕事に支障を来している、薬を減らすと今度は発作が出現してしまう」というような場合には難治性の発作と考えるべきでしょう。

結婚や妊娠を希望する女性には、特別な配慮が必要です。通常用いられる抗てんかん薬の単剤使用により、奇形発生率や死産率は一般人口の2~3倍に高まります(それでもおよそ95%の妊娠出産は正常に行われるのですから、抗てんかん薬を服用しているからといって妊娠してはいけないということはありません)。多剤併用では、危険率は直線的に増大します。したがって結婚や妊娠を希望する若い女性では、発作の薬剤抵抗性に比して、発作および薬剤治療による障害性が相対的に高く、外科的治療の重要性が大きいと考えられます。

2. 外科的治療の禁忌

表2 てんかん外科の禁忌
(Duchowny, 1997)

○絶対禁忌
  良性のてんかん症候群(特発性てんかん)
  神経変性疾患や代謝異常
○注意すべき患者
  服薬コンプライアンスの不良
  重度の機能崩壊家庭
  精神病

外科的治療の明らかな禁忌は「てんかん症候群分類が明らかに特発性てんかん症候群に入る場合」と「外科的治療を不可能とする全身性合併症を有する場合」です (表2)。かつては慢性精神疾患を合併する患者さん、IQが70以下の患者さんは手術の適応外とされていましたが、現在、これらの条件のみで単純に手術適応外と判断されることはありません。
側頭葉てんかんの患者さんでは異常な攻撃性が出現することがありますが、手術により発作が消失するとその攻撃性も消失します。しかし、その他の精神症状は発作時・発作後症状など発作に直接関係するもの以外は、発作が消失しても影響を受けません。まれに術後、分裂病が悪化したり新たに分裂病様症状が出現することがあります。また、手術の説明に対する理解度や術前検査に対する協力性にも問題が生ずることがあります。これらの理由から、慢性精神病を合併した患者さんの受け入れを躊躇するてんかん外科施設が多いのですが、てんかん手術のメッカであるカナダのモントリオール神経病院の報告では、こういった問題点は実際には手術治療を行う際の支障とはならず、手術前後で分裂病は不変であったが、発作が消失したことにより、生活の質の向上、抗精神病薬治療の単純化など、得られるメリットは大きいとしています。したがって、慢性精神病のある患者さんの難治性てんかんについては、手術治療を行うかどうかは、患者さん一人一人でよく検討する必要があるでしょう。

成人のてんかん患者さんですでに精神遅滞を来している方の場合は、広汎な脳障害やてんかんの多焦点性を示唆するので、局所的な皮質切除術で対処する場合にはてんかん発作の消失が得られにくい傾向があります。しかし、強度の精神遅滞の患者さんでも発作の消失・減少により生活の質の向上が得られる場合には、術前検査に協力可能なこと、家族の支援体制がきちんとしていることなどを前提に、外科治療が考慮されえます。特に脳梁離断術の適応となる患者さんはすでに強度の精神遅滞を来していることも多く、IQが低いからといって手術適応外と判断するべきではありません。また、小児の難治性てんかんに対する外科的治療は精神運動発達の回復や促進をもたらしうるので、小児における精神運動発達遅延はむしろ外科的治療を考慮する際の指標となります。

特発性てんかんに属するてんかん症候群は年齢依存性で自然寛解率が高い上に、抗てんかん剤の治療効果も高いので外科的適応はありません。特発性てんかん症候群では症候性てんかん症候群に比較して、遺伝的素因の割合が高く家族発症が多いのですが、症候性てんかんでも家族歴を有することはありえます。側頭葉てんかんと関連の深い小児熱性痙攣でも一部遺伝的素因が関与するので、家族歴があるからといって手術治療が不可能ということはありません。

先天性代謝異常や神経変性疾患などに伴う難治性てんかんは一般的に手術の適応外です。また脳炎や頭部外傷の急性期など活動性の病変によるけいれん性、または非けいれん性発作は一時的なものであり、外科的治療の対象とはなりませんが、これらの活動性病変が治瘉した後に慢性的に遺残する難治性てんかんは外科的治療の対象となりえます。

3. 小児てんかんにおける外科的治療適応判断の特殊性

小児に対して外科的治療の適応を考慮する場合には、成人とは別の視点が必要になります。乳幼児期にてんかん発作が頻発すると、脳組織の正常発達が妨げられ非可逆性の精神運動発達遅延の原因となりえます。したがって発作そのものが日常生活に及ぼす支障のみならず、精神運動発達に対する考慮が必要なのです。外科的治療は発作を抑制するだけでなく精神運動発達にも好影響をもたらしうることが明らかとなり、欧米では乳幼児の難治性てんかんに対して外科的治療が勧められるケースが非常に増えています。一方、日本では未だ小児難治てんかんに対する外科的治療の認知度が充分高いとは言えない状況で、早期に外科的治療を行えば予防できたかもしれない精神運動発達の遅延が、いたずらに内科的治療に時間を費やしたために、回復不能な脳障害を残した例に遭遇することも多くあります。

小児に対する外科的治療が躊躇されやすい理由としてAicardiは、致死的な疾患でないにもかかわらず脳を切除することに対する文化的・心理的な反感の他に、小児てんかんでは自然寛解が多々あること、1950年代の先驅的外科治療の結果が思わしくなかったこと、小児重症てんかんの多くが全般てんかんであること、小児では頭蓋内留置電極記録など侵襲的検査が困難であることなどを挙げ、これらのほとんどは既に克服された問題だと記しています。すなわち、ビデオ脳波記録の導入によりてんかん症候群分類が発展し、手術の対象とならない良性小児てんかん症候群は明確に定義・診断されるようになりました。また画像診断技術の進歩により器質的異常がより正確に高頻度に診断されるようになり、非侵襲的な局在診断技術も進歩してきています。更にこれまで全般てんかんとみなされてきた疾患群の中にも局在関連のものが多く含まれていることが明らかになってきました。半球切除術などでは手術手技そのものが進歩し、手術に伴う危険性が大きく低下しています。さらに、乳幼児期の脳は可塑性が高く、それぞれの半球がともに優位半球となりうる潜在的能力を備えています。また、運動神経も片側支配が確立する前であれば、一側の運動野が障害されても、片側半球の両側支配により高度の代償が可能です。したがって、乳幼児の外科的治療では、てんかん焦点に対して、より根治的な手術を目指すことが可能で、この点も近年の小児てんかん外科症例の増加の背景となっています。

小児手術例に対する松坂らの後方視的研究によれば、頻発発作が7ヶ月以上持続すると発達指数が低下しています。更に発達指数の低下が出現してから3ヶ月以内に手術を行った場合には術後に発達指数の回復がみられましたが、10ヶ月以上遅れて手術を行った場合には、術後もその回復は困難であったということです。したがって、小児難治性てんかんでは、発作が薬剤で比較的容易にコントロールできる場合を除いて、早期の外科的治療を常に念頭におく必要があります。特にMRIやCTなどの画像診断により、切除可能な病変が見つかった場合には、てんかん外科専門施設への早期の紹介が勧められます。

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