東京大学医学部脳神経外科

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脳の病気と治療

ガンマナイフ

ガンマナイフによる治療

2018年3月よりガンマナイフ最新機種Icon(アイコン)が導入されました。

ガンマナイフは脳を対象とする特殊な放射線治療装置で、脳の深い部分や重要な機能を担う部分に病気がある場合、⼤切な機能を温存して病変部だけを選択的に治療することができる画期的な治療法です。短期間の⼊院で、局所⿇酔下に治療が可能であることから、⼩児から⾼齢者まで、全⾝⿇酔下での⼿術に危険が伴うような状態の⽅でも、⼤きな痛みや苦痛を伴うことなく安全に治療が可能です。また、外科⼿術がどうしても必要な患者さまでも、⼿術の効果をより優れたものとする補助⼿段としても有⽤です。現在普及しているサイバーナイフやノバリスなどの他の定位放射線治療装置と⽐較すると、⼀括でより正確に⼤量の放射線を照射可能であり、治療精度で最も優れているため、最も安全かつ早期に効果の発現が期待できます。ガンマナイフは、数ある脳疾患に対する定位放射線治療装置の中で、20年以上の⻑期的な効果と安全性が証明されている唯⼀の機器といえます。

ガンマナイフの構造

ガンマナイフでは、約200個のコバルト(Co60)線源が半円球状に配列され、ここから発するガンマ線の細いビームが⼀点に集中するように設計されています。これにより、⼀つ⼀つの放射線のビームが貫通する周辺正常脳組織への影響を最⼩限に抑え、中⼼部にある病変に対しては通常の放射線治療で⽤いられるよりも、極めて⾼い線量の放射線を⼀回で照射することが可能となります。開頭こそしないものの、0.5 mm以下の極めて⾼い精度で⽬標病変に対する⼀括⼤量放射線照射を⾏い、⼿術と同等の効果を得られることから、「放射線外科⼿術 (Radiosurgery)」と呼ばれ、脳神経外科領域の一分野として注⽬されています。

東京⼤学病院におけるガンマナイフ治療の特⾊

国内第⼀号機の設置以来、最も⻑期にわたる治療実績と豊富な治療経験

東京⼤学には1990年にガンマナイフの国内第⼀号機が導⼊され、現在までに約3000例以上のガンマナイフ治療を⾏っております。患者さまの治療成績は、⼀貫したデータ・ベースに集約されているため、新たな患者さまに対して治療を⾏う際に、最新のデータに基づいた治療⽅針を常に提供でき、治療成績の向上に貢献しています。治療後も、定期的に専門外来でありますガンマナイフ再診外来において綿密な経過観察を続けることをお勧めしています。現在では、最も⻑期の患者さまで、治療後25年以上にわたる良好な経過を確認できております。ガンマナイフ単独での治療が困難な患者さまについては、様々な専⾨領域をもった脳神経外科の全スタッフが集まり、治療⽅針を検討します。⼿術、⾎管内治療、そのほかの治療⼿段との組み合わせで、⼀⼈⼀⼈の患者さまに最も適した治療⽅針を提⽰させていただきます。また、実際の線量計画と照射に際しては、脳神経外科の専⾨医と放射線物理学に精通した放射線科の担当医とチームを組んで詳細な検討を加えた上で治療を⾏っています。

新しいテクノロジーの導⼊による正確かつ快適な治療


当院ガンマナイフ室


エレクタ社提供 
マスクによる固定

当科では、2018年3月、それまでのガンマナイフ4Cからガンマナイフ最新機種であるIcon(アイコン)に機種を更新しました。これにより、病変に合わせてより精密な治療が可能になるとともに、正常組織への不要な被曝を一層減らすことができるようになりました。さらに、Icon(アイコン)の最大の特徴として、従来のフレームによる固定に加え、マスクによる固定が可能となったことが挙げられます。これまでガンマナイフでは治療困難であった大型の病変に対しても、マスク固定による寡分割照射を選択することで治療ができるようになりました。

最新の画像イメージングによる安全性を追求した治療


運動神経線維の
トラクトグラフィー(橙)を
併⽤した治療

通常、ガンマナイフの治療で使⽤されるMRIなどの画像では、脳の形や病変部の位置を確認することはできますが、運動や視覚、⾔語に関与する神経線維がどこを通っているかに
ついては、正確に描き出すことは困難でした。当院では、放射線科の協⼒により、これらの神経線維の⾛⾏を描き出すトラクトグラフィーという技術開発し、これをガンマナイフの
治療にも応⽤しております。現在までの治療計画のデータから、これらの神経線維がどの程度の放射線照射に耐えうるかを分析し、実際の治療ではこれら神経線維への照射を安全範
囲に抑えることで、⿇痺、視野障害、⾔語障害といった合併症を⽣じる可能性を限りなくゼロに治療を⾏っています。

また、脳動静脈奇形や硬膜動静脈瘻などの脳血管障害に対して、近年当院で独自に開発した、3次元回転血管撮影(3DRA)による断層像を治療計画に統合する手法を用いております。これにより、さらに高精度の治療が可能となり、長期的には合併症が減少することが期待されます。


各画像の違い:3DRAを治療計画に利用することにより、血管病変をより精密に定義することが可能になりました

次世代につながる研究

東京大学では医学の発展のため、ガンマナイフ治療の新たな試みによる治療成績の向上を数多く世界に発信して参りました。現在は「von Hippel-Lindau病患者の無症候性頭蓋内血管芽腫に対するガンマナイフ治療の有効性と安全性を検証する前向き介入試験」を行っております。詳細については治療担当医にお問い合わせください。

対象となる疾患

ガンマナイフが適応となる脳疾患は多岐にわたります。脳⾎管障害では、脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻などの出⾎性疾患が治療のよい適応となります。また、脳腫瘍では、転移性脳腫瘍をはじめとした悪性脳腫瘍から、聴神経腫瘍、髄膜腫、下垂体腺腫といった良性脳腫瘍まで、幅広い疾患に効果があります。機能性疾患では三叉神経痛対して⼀定の有効性が⽰されております。
⼀般的には直径3 cm以下の脳の⽐較的⼩さな病変が対象となりますが、近年は照射精度の向上や分割照射の導入に伴い、治療部位や体積によっては、⻑径が3 cm以上あっても治療可能な場合も増えてきています。基本的な治療の適応については、患者さま⼀⼈⼀⼈のこれまでの経過、現在の症状、年齢などを考慮してガンマナイフ治療を専⾨とする医師が、それぞれの疾患の専⾨医と相談して判断させていただきます。

脳動静脈奇形:

治療適応の目安 直径3 cm以下あるいは、⻑径は⻑いが体積として概ね15 cc以下。⼿術で安全に摘出することが困難な部位の病変でも安全に治療可能です。
治療後の経過 通常3年から5年で異常⾎管の閉塞に⾄ります。当院での過去のデータの解析から、治療後閉塞までの期間においても出⾎のリスクは低下していることが明らかになりました。
東大病院における治療の特徴 当院におけるガンマナイフの対象となった良性疾患のうち、最も多いのが脳動静脈奇形で、これまでに約1100例の治療を行っております。神経線維が近く治療が難しいものに対しては前述のトラクトグラフィーを併用して綿密な治療を行います。また有効性の確立した治療ではありませんが、出血を繰り返すような大型脳動静脈奇形(10 mLを超えるもの)に対しては近年、多段階ガンマナイフ治療(半年程度の間隔をあけ、2〜3回で治療を行います。)を行う場合もあります。

硬膜動静脈瘻:

治療適応の目安 横静脈洞、S状静脈洞、内頚動脈海綿静脈洞瘻などの硬膜動静脈瘻。耳鳴り、眼球突出、結膜充血などの症状を有するもの、頭蓋内逆流を伴うもの。血管内塞栓術が困難あるいは、血管内塞栓術後の残存。
治療後の経過 通常1年から3年で異常吻合血管の閉塞に至り、頭蓋内逆流等も消失します。

横-S状静脈洞硬膜動静脈瘻(左)に対しガンマナイフ治療を行い、1年3か月後(右)に動静脈瘻の閉塞により、拡張した静脈が消失したことを確認。

聴神経腫瘍:

治療適応の目安 直径2.5 cm以下のもので嚢胞成分が目立たないもの。術後残存腫瘍が増大傾向にある場合。特に高齢であったり全身状態が不良で全身麻酔のリスクが高いような場合には、ガンマナイフが推奨されます。
治療後の経過
左聴神経腫瘍(左)に対しガンマナイフ治療を行い、3年後(右)縮小を確認。
東大病院における治療の特徴 当院ではこれまでに約450例の治療を⾏っております。2001年以降線量を下げて治療を⾏い、90%以上の腫瘍制御を維持しつつ70%程度の有効聴⼒温存を得ています。

髄膜腫:

治療適応の目安 手術による危険性が高い部分(頭蓋底など)に生じた病変で、小さく(10 cc 未満程度)かつ悪性所見が疑われないもの。静脈洞、脳幹といった構造との関係で、術後残存させた場合。
治療後の経過
大脳鎌髄膜腫(左)に対しガンマナイフ治療を行い、3年後(右)やや縮小し、内部の増強効果が弱まっているのを確認。
東大病院における治療の特徴 当院ではこれまでに約450例の治療を⾏っております。症例に応じては⼿術を併⽤することなどにより⼩さな頭蓋底髄膜腫では5年で100%と良好な腫瘍制御が得られています。

転移性脳腫瘍:

治療適応の目安 これまで直径3 cm以下、個数としては10個以下を⽬安としてきましたが、最新機種Icon導入後は、摘出術困難な3cm以上の病変や、10個以上の場合に対しても積極的に治療を行っています。従来、転移性脳腫瘍に対する放射線治療としては全脳照射が一般的に行われてきましたが、ある一定の確率で認知機能低下を引き起こすことが分かってきており、現在では全脳照射をなるべく後回しにすることが得策であると考えられています。全脳照射後の再発の場合には非常に数が多くても、ガンマナイフ治療で可能な範囲で対処します。
また、転移性脳腫瘍に対する摘出術後に局所の再発を抑止する目的で、摘出腔にガンマナイフ治療を追加することもあります。
治療後の経過
左運動前野への卵巣癌脳転移(左)に対しガンマナイフ治療を行い、1年後(右)まで縮小した状態を維持しているのを確認。

一部の神経膠腫:

東大病院における
治療の特徴

浸潤性の高い神経膠腫の場合、一般的にはガンマナイフ治療の適応となり難いですが、初期の放射線化学療法の後に再発した場合に、他の治療法と併用しながらガンマナイフ治療を行う場合があります。当院では小さい状態で発見された再発に対しては積極的に応用しています。


放射線化学療法終了後再発した神経膠芽腫(左)に対しガンマナイフ治療を行い、7ヶ月後(右)まで明らかな再発なく経過。

三叉神経痛:

治療適応の目安 薬物療法や神経ブロックが無効であり、全身麻酔の危険性が高い場合。神経血管減圧術が無効であったものや術後に再発したもの。

治療の実際

<単回照射の場合>

治療は⼀⽇で終了します。原則として治療前⽇に⼊院していただき、治療翌⽇に退院していただきますので、⼆泊三⽇の⼊院となります。退院後はすぐに元通りの⽣活に戻っていただくことができます。ガンマナイフの治療費は約50万円です。3割負担の場合には、お部屋の種類にもよりますが、窓⼝でお⽀払いいただく⾦額は概ね20万円弱となります。

治療前⽇ ⼊院当⽇にMRIやレントゲンなど、必要な検査を⾏います。また翌⽇の治療につき再度担当医よりご説明いたします。
治療当日 朝から準備を⾏います。まず頭部のフレームを装着します。痛みを伴うような印象がありますが、実際には軽度の沈静(眠った状態)と⼗分な局所⿇酔を⽤いますので、⾃覚される痛みは⼗分に和らげられます。

フレームの装着
⾎管障害の場合にはその後フレーム装着した状態で脳⾎管撮影を行います。治療の前にはガンマナイフに搭載されているコーンビームCTを撮影し、それまでに得られた画像と統合し、最終的に治療計画を完成させます。すべての準備が整いましたら実際の放射線照射を⾏います。放射線照射においては⾳や痛みなど⾃覚されるものはありません。患者さんが治療を受けられる治療室にはビデオモニターがついており、隣の操作室で確認できるようになっています。また双⽅にマイクが装備されているため、担当医とコミュニケーションをとりながら治療を進めていくことができます。治療時間は病変の種類、数、⼤きさによって⼤きく異なりますが、通常30分から数時間の間です。
治療終了後すぐに頭部のフレームを外します。その後はお部屋でお休みいただきますが、すぐに歩⾏や⾷事を始めることができます(脳⾎管撮影を⾏った場合は、脳⾎管撮影終了後6時間から歩⾏可能です)。治療後、担当医がどのような治療を⾏ったかについて説明いたします。
治療中の様子
治療翌⽇ 担当医による状態の確認のうえ、ご退院いただけます。退院当⽇より元通りの⽇常⽣活にお戻りいただけます。

<分割照射の場合>

分割照射の場合、多くは3〜5分割となります。原則的には2泊3日の入院で初回治療を行い、その後の治療は外来通院で行います。遠方からお越しの方や通院が困難な場合は、入院による治療継続も可能です。治療費用は単回の場合と同一です(2018年7月現在)。

治療前⽇ ⼊院当⽇にMRIやレントゲンなど、必要な検査を⾏います。また翌⽇の治療につき再度担当医よりご説明いたします。
治療当日 頭部を固定するための枕とマスクを作成します。
その後、コーンビームCTを撮影し、それまでに得られた画像と統合し治療計画を完成させます。治療開始前に再度CT撮影を行い、位置合わせを行います。すべての準備が整いましたら実際の放射線照射を⾏います。放射線照射においては⾳や痛みなど⾃覚されるものはありません。患者さんが治療を受けられる治療室にはビデオモニターがついており、隣の操作室で確認できるようになっています。また治療中は赤外線モニターにより位置がずれていないことを監視しながら照射を行います。治療中に不都合などありましたら、直前にお渡しするブザーにてお知らせください。治療終了直後よりとくに行動の制限はございません。

受診方法

東⼤病院の外来は、原則として予約制となっております。東⼤病院予約センター 03-5800-8630 (受付時間:平⽇午後1〜5時)に電話をしていただき、⽉曜⽇か⽔曜⽇の午前中の脳神経外科・ガンマナイフ初診外来を予約して下さい。ご紹介いただく担当の先⽣に紹介状と画像データを⽤意してもらい、受診の際にご持参ください。

ご紹介いただく先生へ

紹介状と画像データもしくはフィルム(MRIや脳⾎管撮影など)を患者さまにお渡しになり、⽉曜⽇か⽔曜⽇の午前中の脳神経外科・ガンマナイフ初診外来を受診していただいてください。外来を予約していただいた場合は、基本的に電話でご連絡いただく必要はありませんが、遠⽅で患者さまの外来受診が難しい場合や、治療適応の判断に迷われる場合などには電話や電⼦メールでのご相談にも応じます。

ガンマナイフ治療担当医

梅川 元之長谷川洋敬

東京大学医学部附属病院 脳神経外科
〒113-8655 東京都文京区本郷7-3-1
電話 03-3815-5411(代表)

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