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新たな二期的肝切除ALPTIPSについて(肝・胆・膵外科)

肝臓を一度に大量に切除すると、残る肝臓の容量が不足して「肝不全」という合併症を発生することがあります。重篤な肝不全は致命的となります。そこで、残肝容量を増やす目的で、様々な工夫が行われてきました。

(1)門脈塞栓術
切除する予定の肝臓を養う「門脈」という血管を、予め塞栓することで、対側の温存する肝臓の容量を2週間の間に増大させる方法です。この間に肝臓全体の容量の10%前後の増大率が得られ、大量肝切除の安全性が飛躍的に向上しました。東京大学肝胆膵外科の前教授・幕内雅敏先生が世界で最初に考案・導入した方法で、現在は世界中で広く利用されています。

(2)二期的肝切除
肝臓にできた多くの肝転移の病巣を二度に分けて切除する方法で、フランスから発表されました。最初の肝切除の後に、残肝を増大させ、数週間の期間を置いてから二度目の肝切除を行います。しかし、二度目の肝切除までの期間が不定であるという欠点もありました。

(3)ALPPS
2012年にドイツ、フランス、南米を中心に発表された方法です。二期的肝切除の一期目の手術で、切除するべき肝臓の門脈を切離し、さらに肝臓を分断してしまいます。すると、門脈塞栓術による肝臓の再生率や再生速度に比較して、2倍以上の効率で残る肝臓の再生が促進されることがわかりました。その後、二期目の肝切除は初回の肝切除から1週間という短い間隔で行うことが可能となり、切除の可能性が拡がったとするものです。Associating Liver Partition and Portal vein embolization for Staged hepatectomyの頭文字をとってALPPSと名付けられました。ヨーロッパのアルプス山脈を連想させるネーミングです。

しかし、欧州の当初の報告によれば、手術死亡率が12%以上という高率で発生し、合併症の割合も非常に高いという結果になりました。死亡の原因について様々な考察がなされ、一期目の手術後の合併症が二期目の手術も困難にしていると予想されました。

(4)ALPTIPS
そこで、東京大学肝胆膵外科では、ALPPSの一期目の手術の影響を二期目の手術に残さないように工夫しながら、かつ、一期目の手術によって肝再生が効率よく進むような方法を考えました。ALPPSに倣って、Associating Liver Partial partition and Trans-Ileocecal Portal vein embolization for Stage hepatectomyの頭文字をとってALPTIPSと名付けました。

ALPTIPSの一期目の手術は東京大学附属病院をはじめ、いくつかの大きな病院には導入されているハイブリッド・アンギオ室という手術室で行います(図A)。手術と血管造影を同時に行うことが可能な手術室で、質の高い門脈塞栓術を行うことができます。この部屋で一期目の肝切除と門脈塞栓術を同時に行います。この際に、二期目の肝切除に悪影響を及ぼさないように細かい工夫をこらしています(図B)。

その2週間後に、今度は根治的な肝切除術を行います(図C)。2週間の間隔は、門脈塞栓術単独の場合よりも1週間早くなりました。

2014年12月から2015年12月までの1年間に5名の患者さんでこのALPTIPSを行いました。5名の患者さんはいずれも、従来の門脈塞栓術のみでは残肝容量が不足する、あるいは切除の安全性の担保が難しい患者さんばかりです。疾患別には転移性肝がんが3名、肝細胞がんが1名、肝内胆管がんが1名です。2週間の待機中に、全体の肝臓の比率で16.6%の増大が得られました。これは門脈塞栓術のみの10%に比較して良好な数字です。5名の患者さんはいずれも肝不全や胆汁漏などの合併症を発生せず、元気に退院されました。特に肝細胞がんの患者さんは、他のがん専門病院では残肝容量も不足している上に、肝臓がんから伸びた腫瘍が心臓の近くまで達しているために治療はできないとして、東京大学に紹介されてきました。心臓血管外科や放射線科の先生方と協力してALPTIPSに成功し、手術から1年経った現在、患者さんはがんの再発もなく元気に過ごされています。

◆ 患者さんへのメッセージ

大腸がんの肝転移の治療では、近年化学療法(抗がん剤治療)の発達が目覚しく成績が向上しているのですが、根治を目指すためには肝臓にできたがんの病巣をきちんと切除することが必要です。残る肝臓が少ないという理由で肝切除が困難であると判断された患者さんについてはALPTIPSや当科でも導入している周術期の化学療法の治療を組み合わせて治療できる可能性があります。もし該当する方がおられたら、当科外来に紹介受診あるいはセカンドオピニオンとしての受診をお薦めいたします。