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低電流電気刺激による平衡障害治療(耳鼻咽喉科・頭頸部外科)

人間の耳には、3つの半円状の管である三半規管(さんはんきかん)と耳の中の平衡砂を収めた耳石器(じせきき)で構成される前庭(ぜんてい)という身体のバランスを保つ器官があります。前庭の機能が障害されるとめまいやバランス障害を生じ、高齢者のめまい・平衡障害の約40%はこの前庭の障害に起因し、転倒・骨折のリスクは3倍になることが報告されています。特に両耳の前庭が障害されると、歩行時などに強いふらつきを感じる、まっすぐ歩けない、物が揺れて見える、などの症状が出現し、高齢者の転倒や骨折の重大な原因となっています。しかしながら、この両側前庭障害に対する有効な治療は、これまでにありませんでした。

視覚や聴覚、知覚などの感覚において、情報を入力する際に微弱なノイズを加えるとその情報の検出感度が高まる「確率共振」という現象が知られており、医学の分野では、難聴者の聴覚の改善や、パーキンソン病患者の自律神経機能の改善などに応用されています。
 

当科では、この確率共振現象を応用することで、身体のバランスをつかさどる前庭の機能を増強することができるのではないかと考え、健常者21名と両側前庭障害患者11名の耳の後ろに表面電極を貼り、携帯型の電気刺激装置を用いて、さまざまな強さのノイズ様の電気刺激を与えて、目を閉じて立った時の身体のバランスを測定しました。

刺激強度を少しずつ上げていくと身体のバランスは徐々に改善し、刺激を感じとれる強さの約80%程度の強さの刺激では、刺激が無いときにくらべて、健常者で約38%、前庭障害患者で約45%の身体の揺れの改善を認めました。この刺激で痛みや不快感などの副作用は生じませんでした。

この結果は、確率共振現象を身体のバランスに重要な前庭の機能増強に応用した初めての成果であり、痛みや不快感などの副作用を伴わず、携帯型の簡便な刺激装置で行えることから、前庭機能障害患者のみならず、高齢者のバランス障害の改善や転倒予防の新たな治療となることが期待されます。