強皮症専門用語の解説 of 東大皮膚科ホームページ

強皮症専門用語の解説

1)線維化(硬化)
 全身性強皮症では皮膚や内臓に膠原線維(コラーゲン)などの細胞外基質と呼ばれる物質が増加し、その結果、皮膚や内臓が硬くなります。この現象を「線維化」あるいは「硬化」といいます。膠原線維などの細胞外基質は、細胞の外にあって、細胞同士をくっつけたり、細胞の間のすきまをうめる、いわばセメントのような物質であり、全身性強皮症では活性化した線維芽細胞が、必要以上に大量の膠原線維を作ってしまう結果、線維化がおこると考えられています。

2)皮膚硬化
 皮膚硬化とは皮膚に線維化が生じたものです。最初は指のこわばり、むくんだ感じからはじまります。今まで入っていた指輪が入らなくなることで気づく人もいます。皮膚の硬化は指先から生じ、手背、前腕、上腕、躯幹と順番に体の中心部へ進行することもあります。従って、例えば躯幹や上腕に皮膚硬化があるのに、指には皮膚硬化がないということは全身性強皮症では起こりません。また、皮膚の硬化は通常発症5~6年以内には進行することもありますが、それ以降は「萎縮期」といって、今度は徐々に皮膚硬化が改善します。ですから、最初の数年以内にできるだけ皮膚硬化を進行させないようにしっかり治療する必要があります。進行している皮膚硬化に対しては、ステロイドの少量内服が有効です。

3)全身性強皮症に伴う肺線維症
 肺線維症とは肺に線維化が生じるもので、全身性強皮症では肺の下の方から起こります。進行すれば胸部レントゲンでもわかりますが、わずかな病変や早期の病変は胸部CTをとらないとわかりません。これらの検査に加えて、肺の機能を調べる呼吸機能検査や、実際肺にどのような炎症が起こっているかを直接調べる気管支肺胞洗浄液などの検査も必要です。これらの検査は肺線維症があるのか、ないのか、というだけではなく、どの程度あるのか、さらに今進行しているのかを調べるために必要です。今進行している肺線維症に対しては最近シクロホスファミドという薬剤が有効である可能性が示されています。

4)逆流性食道炎
 食道の下部の筋肉に線維化が起こり、胃酸が食道に逆流することによって生じます。最も多い症状は胸焼けです。また、食道の動きが悪くなるため、胸のつかえも生じます。これらの症状はプロトンポンプ阻害剤という治療薬でかなり改善されることがわかってきました。また、食事は一度にたくさん食べず、少量を一日4~5回に分けて食べる、食べた後は横にならないなどの注意も必要です。

5)強皮症腎クリーゼ
 腎臓の血管に線維化が起こり、高血圧を生じるもので、20年前までは重篤な合併症でしたが、ACE阻害薬という高血圧のお薬によって、十分に治療しうるものとなりました。しかし治療が遅れると腎臓の機能が悪化して、透析が必要となりますので、今でも早く発見して、早く治療することが極めて重要です。全身性強皮症の患者さんは毎日きちんと血圧を測定して、血圧が上がってくるときには直ぐに主治医の先生に相談するようにして下さい。強皮症腎クリーゼは他の全身性強皮症の合併症と異なり、急に発症することが特徴ですので、充分な注意が必要です。

6)指尖部虫喰状瘢痕
 指先に小さい傷痕ができる症状です。全身性強皮症では血管が壊れやすいため生じると考えられています。冬など寒い季節などで、悪化すると指先の潰瘍となってしまうこともありますので、指先をぶつけたりしないように注意し、保温を心がけるようにして下さい。潰瘍ができた場合には、自分で処置しないで、直ぐに主治医に相談して下さい。

7)レイノー症状
 全身性強皮症の初発症状として最も多い症状です。冷たいものに触れたりすると、指先が最初白くなって、次に紫色になり、暖めると赤くなって元に戻る症状です。痛みやしびれを伴うこともあります。保温が大切です。

8)抗核抗体
 抗核抗体とは自己抗体の一種です。では自己抗体とは何でしょうか?例えば、ウイルスに感染して風邪になった場合、人間の体はウイルスを「自己ではない異物」と判断し、ウイルスに対する抗体が作られ、これがウイルスを殺し、やがて風邪は治ります。ウイルスに対する抗体とは人間の体の中で発射されるウイルスに対するミサイルのようなものと思って下さい。風邪をひいた場合、人間の体は自分の体に対しては抗体、つまり、ミサイルを発射することはありません。これは自分の体を「自己」と判断しているからです。もし自分の体を「自己」と判断せず、「自己ではない異物」と判断した場合はどうなるでしょうか?この場合、抗体、つまりミサイルは自分の体に向けて発射されます。その結果、自分で自分の体を壊す結果となり、病気がおこります。自己抗体の中でも、細胞の「核」という部分に対する抗体を抗核抗体と呼びます。「核」は遺伝子が働く重要な場所です。全身性強皮症では抗核抗体はその90%以上の患者さんで陽性となり、病型、特定の内臓病変、病気の進行と関連が深いため、病気の進行などを予測する上で非常に大切な情報となります。

9)抗セントロメア抗体
 細胞の核にある染色体は2本で1対になっています。この2本の染色体はちょうどその真ん中でお互いつながっています。このつなぎ目の部分がセントロメアと呼ばれます。この抗体は全身性強皮症の約30%に陽性となります。この抗体は、症状が比較的軽い全身性強皮症に陽性となることが特徴です。この抗体を持っている患者さんでは、1)皮膚硬化の範囲、程度が軽い。2)肺線維症を合併することはまれ。3)症状の進行が非常にゆっくりである。4)皮膚硬化がはっきりとするまで、レイノー症状が長期に(通常10年以上)先行する。5)石灰沈着、血管拡張などの症状を伴いやすい、ことが知られています。

10)抗トポイソメラーゼ I抗体
 トポイソメラーゼ Iとは、二重らせん構造をとっているDNAがねじれた場合に、そのねじれを元に戻す働きを持っている重要な酵素です。抗トポイソメラーゼ I抗体は、以前は抗Scl-70抗体と呼ばれていました。全身性強皮症では約40%にこの抗体が陽性となります。比較的典型的な全身性強皮症で高率に陽性となります。従って、この抗体を持っている患者さんはほぼ間違いなく全身性強皮症と診断されます。この抗体は、比較的広い範囲に及ぶ皮膚硬化や肺線維症と関連があります。この抗体が陽性の場合、肺線維症は約80%で認められます。

11)抗RNAポリメラーゼ抗体
 最近新しく発見された抗核抗体で、わが国では約5%の全身性強皮症で検出されます。この抗体を持っている患者さんでは、比較的広い範囲に及ぶ皮膚硬化がありますが、肺線維症が少なく、治療によって皮膚の硬化も改善しやいようです。

12)抗U1RNP抗体
 抗U1RNP抗体は混合性結合組織病で高率に陽性になる抗核抗体ですが、全身性強皮症でも陽性となります。この抗体を持っている全身性強皮症患者さんでは、手や指にむくみを伴った皮膚硬化がでるのが特徴です。また、関節炎などの炎症症状や血液検査で炎症所見を伴いやすいことが知られています。

13)限局性強皮症
 限局性強皮症は全身性強皮症と名前は似ていますが、全く異なる病気です。全身性強皮症の皮膚の硬化は両手の指から始まって、左右対称性に徐々に体に広がりますが、限局性強皮症では手の指の硬化はなく、体のあちこちに、左右非対称性にあざのような硬くなった皮膚の変化がでてきます。また、全身性強皮症と違って、いわゆる膠原病ではありません。全身性強皮症と異なり、内臓を全く侵さず、生命に関わらない全く良性の疾患です。つまり、心配のない皮膚だけの病気です。限局性強皮症が全身性強皮症に移行する可能性はほとんどありません。両者は全く別の病気です。